もやもやレビュー

トラウマに土足で踏み込むヤベー主人公『今日、恋をはじめます』

今日、恋をはじめます DVD通常版
『今日、恋をはじめます DVD通常版』
武井咲,松坂桃李,木村文乃,青柳翔,古澤健
ポニーキャニオン
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 恋愛映画は美男美女が出演することは仕方がない。スクリーン上に映る姿が我々のそれだったら興ざめして誰も観ようとさえ思わないだろう。しかし、美男美女を配しておきながら主人公が地味で目立たない設定とはどういうことなのか。武井咲が非モテだったら人類は結構昔に絶滅している。いくらフィクションでも鼻白む。

 累計発行部数800万部を超える漫画原作のあらすじを記すことに逡巡するが、B級サメ映画しか観ない偏屈な読者に向けて簡単に述べる。
 主人公・日比野つばき(武井咲)は真面目が取り柄の地味な女子高生。偶然隣の席になった学校一のモテ男・椿京汰(松坂桃季)と髪型で口論になり、周囲の女子生徒から非難される。京汰は「今日からこいつ、俺の女にするから」とキスをして、つばきのファーストキスを奪う。はじめは遊びのつもりだった京汰だが徐々に本気になっていく京汰と、遊ばれていると分かっていても惹かれるつばき――。

 京汰には母親に関するトラウマがあり、女癖の悪さはそこに起因する模様。しかし、つばきは平然と京汰のトラウマを抉り、何故かそれが原因で母親と和解する。
 心に抱えるトラウマに土足で踏み込まれたらよくてグーパンチ、悪ければ殺人事件に発展と思うのだが。どう考えても恋愛のスパイスにはならない。いくら武井咲でも非モテなのは仕方がない。ヤベー奴である。メンタルをタコ殴りにされて愛情を深める京汰は聖人君子並みに心が広い。もしくはヤベー奴だ。

 漫画は2次元であり、ネコ型ロボットが腹の袋から何か出そうが「そういうもの」で済まされる。が、映画は実在の人物が演じる3次元だ。リアリティを感じなければ白けるだけである。それを漫画的表現で無理やり押し通せば、登場人物が途端に頭がおかしい存在になってしまう。原作未見で映画だけ視聴したら作中は正気じゃない人たちの狂宴でしかない。破綻した人たちの色恋沙汰なんて誰が関心を寄せるものか。まぁ制作も40近い中年男はターゲット層に勘定していないだろうが。

 ただ、人物描写がデタラメなのは年齢性別を問わない気がするのだけど。子供だましで食べる飯は旨いのだろうか。旨いんだろうな、昨日今日の風潮でないし。

(文/畑中雄也)

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