もやもやレビュー

真実とは何か? 考えるきっかけを与えてくれる。『否定と肯定』

『否定と肯定』 12月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

私たちが歴史の授業を教わるうえで、「この出来事はもしかしたら嘘かもしれない」と考え、疑ったことはあるだろうか?
よく考えてみれば教科書に書いてあることが事実と信じて疑ったことはなかった。だが、しかし「いい国つくろう鎌倉幕府」なんて語呂で1192年鎌倉幕府成立としっかりと黒板に書かれノートに書き記憶したこの年号も実は間違いで、今では1185年ということになっているらしい。この時教えてくれた先生も教わった生徒も誰もまさか間違っていたとは思いもしなかっただろう。

本作で事実があったのかなかったのか争われることになるのは、なんと「ホロスコートの真実」。
アウシュビッツで起こったとされるナチスによる大量虐殺の真実を、ユダヤ人女性の歴史学者デボラ・E・リップシュタット(レイチェル・ワイズ)を相手に、「ホロスコート否定論」を掲げるイギリス人の歴史家デイヴィット・アーヴィング(ティモシー・スポール)が大量虐殺の事実はなかったとイギリスで訴えをおこす。
実際に1996年に起訴され2000年に裁判をしたこの法廷劇。弁護士軍団に立ちはだかる大量の資料とイギリスの法律制度を利用したこの興味深い裁判で、互いの緻密な戦略は32日間も続く。
裁判当時は注目度も高く、なんとスティーブン・スピルバーグが被告側へ裁判費用を支援していたというトリビアもある。

DENIAL_sub2.jpg

歴史学者デボラ・E・リップシュタットを演じたレイチェル・ワイズ(中央)


本作の監督は大ヒット映画『ボディーガード』の監督ミック・ジャクソン。最近ではドキュメンタリーを数多く手掛けている。
デボラ・E・リップシュタットを演じた女優は『ナイロビの蜂』でアカデミー賞助演女優賞を受賞しているレイチェル・ワイズ。『ナイロビの蜂』で見た彼女の強さや女性らしさ視線といった細部にわたるまで計算されつくされた演技は、この法廷の中でも健在だった。
法廷シーンが多い中で話をするのは主に弁護士であり、彼女の発言の機会は少ない。だからこそ表情や視線での演技はとても重要であった。今後も目の離せない女優の一人であることは確かだ。

「フェイクニュース」などという言葉まであるような現代では、情報の拡散が速く情報の量も莫大だ。そんな中でどの情報が真実でどの情報が誤報なのか? 判断するのは自分自身なのかもしれない。間違った事実も本当のようにマスコミが報道すれば、それが真実のように思えてしまう。そんな現代の情報社会の波をどのようにうまく利用していかに生きていくか。

「ホロスコートの真実」という日本ではあまり身近に感じることが出来ない少し難しいテーマの裏には、普遍的なテーマが投げかけられている。
本当に伝え続けるべき歴史の真実を考えるのは一人一人の人間であると強く感じる作品だ。

(文/杉本結)

***

DENIAL_sub1.jpg

『否定と肯定』
12月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

監督:ミック・ジャクソン
出演:レイチェル・ワイズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・スポール ほか
原作:『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』デボラ・E・リップシュタット著(ハーパーコリンズ・ジャパン)
配給:ツイン

原題:DENIAL
2016/イギリス・アメリカ/110分
公式サイト:http://hitei-koutei.com
(c)DENIAL

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム