もやもやレビュー

涙が止まらん! 痛みを知っている人は優しい。素直に謝れる人は強い。『チョコレートドーナツ』

映画『チョコレートドーナツ』は、4月19日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショーです!

 エンドロールが流れると、あちこちから鼻をすする音が聞こえてきました。これはマジで涙なしに観られません......。『チョコレートドーナツ』というタイトルに胸キュンして予備知識ゼロで観ましたが、偶然持ってたハンカチがぐしょぐしょになりました。ああ、なんか思い出すだけでも胸がぎゅっとなります。

choco_sub1.jpg

主人公のルディ(ゲイ)とポール(ゲイ)と、少年マルコ

 主人公は、シンガーを夢見つつも、場末のショーパブでダンスを踊って日銭を稼ぐルディ(ゲイ)。ある夜、ショーを観にきた地方検事局勤務の弁護士ポール(ゲイ/女性との離婚歴あり)と出会い、2人はすぐに恋に落ちます。一方でルディは、隣の家に暮らすダウン症の少年マルコと出会う。母親から十分な愛を注がれずに育ったマルコ、ある日母親が薬物所持でお縄となりひとりぼっちになってしまいます。そして、強制的に施設に連れて行かれたマルコを、ルディとポールのゲイカップルが引き取る......が!という話。

choco_sub4.jpg

ダウン症の少年、マルコ。ドーナツが大好物です。

 今よりもずっとゲイに対する差別意識が強かった70年代が舞台(ちなみに実際に70年代アメリカであった実話が元になってます)。ポール(未カミングアウト)は、マルコのことで助言を得たいと職場を訪ねてきたルディに対し、周囲に関係がバレることを恐れて保身的態度を取ります。さらに、愛想を尽かして帰ろうとするルディを呼び止めて、「金がいるのか?」という最低発言まで。「恥を知るがいい」......捨て台詞を残してルディはその場を去ります。

 それが永遠のさようならになってもおかしくないですが、翌日ポールはルディの職場を訪れ「すまなかった」と潔く謝るんです。腐った奴じゃなかったんです。でも、完全に自分を軽蔑している相手のところへ出かけていって詫びる。これって本当に勇気がいること。ルディを本気で大事に思っていたからこそですが、ちゃんと謝れる人は強い! 改めてそう思った次第です。

choco_sub5.jpg

一緒にいたいだけなのに、なぜ叶わんのか!

 ゲイだったり障害だったり、ネット上で渦巻いてる民族差別だったり。普通(って何だよですけど)と違う人に対して無意識のうちにでも差別意識を持ってしまうことって、悲しいけどやっぱりあります。今この日本で、差別意識ゼロですなんて胸を張って言える人は、すごく少ないはず。だけれども、そういう差別に晒されて、痛みを背負って生きてきた人の優しさ......そういう人だからこそ持てるほんとの優しさを、この映画を通して目の当たりにすると、差別がどれだけ無意味で人を傷つけるだけのものかを、心底思い知らされます。

choco_sub3.jpg

法廷闘争で差別の目に晒される2人......。

「障害を持ったデブの子どもを養子にしたい人なんて、この世の中には一人もいない。僕らを除いては」

 ゲイカップルってだけで世間から差別されて、マルコと引き離されてしまうルディとポールが、マルコの監護権を巡っての裁判で言ったこの言葉(※正確じゃないかもですがだいたいこういう内容)が、どうにも忘れられません。愛ってそういうことなんだろうなぁ。理屈や当たり前を超えたところにあるのが愛なんですな。この映画、絶対観た方がいいです! 来月公開です。

(文/根本美保子)

『チョコレートドーナツ』
4月19日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

原題:Any Day Now
監督・脚本・製作:トラヴィス・ファイン
出演:アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、アイザック・レイヴァほか
配給:ビターズ・エンド

公式サイト:http://bitters.co.jp/choco/
© 2012 FAMLEEFILM, LLC

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOK STANDプレミアム