【「本屋大賞2026」候補作紹介】『失われた貌』――タイトルまでも伏線。思いもよらないラストに打ちのめされる至高のミステリー

- 『失われた貌』
- 櫻田 智也
- 新潮社
- 3,980円(税込)

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BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2026」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、櫻田智也(さくらだ・ともや)著『失われた貌』です。
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「このミステリーがすごい!2026年版」「週刊文春ミステリーベスト10 2025」「ミステリが読みたい!2026年版」の3冠を獲得し、さらに本屋大賞にもノミネートされた『失われた貌』。どこがそれほど読む者の心をつかむのでしょうか。
物語は、ある朝、山奥で顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされた死体が発見されたところから始まります。この事件の前には、週刊地方紙「北光ウィークリー」に警察の不審者対応に関する苦情の投書が掲載されたばかりでした。
捜査にあたることとなったJ県媛上(ひめかみ)警察署捜査係長の日野雪彦は、慎重かつ迅速に解決するよう命じられます。事件が報道されると、日野の同期である生活安全課の羽幌のもとを一人の小学生男子が訪れます。
彼の父親は十年前に失踪し、失踪宣告を受けています。そのため市内で身元不明の男の死体が見つかるたびに、「ぼくのお父さんじゃないのか?」と確認にやってくるというのです。
やがて、隣の駒根市で別の変死体が発見され、顔を潰された死体の身元も判明。それは男の子の父親ではなく、依頼人の弱みを握っては脅迫を繰り返す前科持ちの探偵でした。
探偵の男は誰に、なぜ殺されたのか。男の子の父親の失踪事件の真相とは......。
序盤では間髪を入れずに新たな事件や展開が起こり、物語はスピーディーに進んでいきます。しかし事件は日を追うごとに思いがけない方向へと進み、絡み合った糸を丹念にほぐしていくかのような現場の地道な捜査が描かれます。
いたるところに周到に張られた伏線が次第に回収され、最後にはすべての謎が解き明かされる――このピースがカチリとハマるような読後感は、本書の大きな魅力であり、これこそ上質なミステリーを読む醍醐味と言えるでしょう。
もう一つ、この作品は警察小説としての面白さを兼ね備えています。他署とのライバル関係、同僚との丁々発止のやり取り、捜査中の部下との軽口の応酬。これらは警察小説好きな人にとって読みどころの一つでしょう。
捜査途中で出会うバーのマスターや弁護士の剣菱といったクセの強いキャラクターや、日野の私生活がうかがえる妻や娘との家庭の描写も、この作品を彩るスパイスになっています。
最後に、伏線回収という意味では、この小説はタイトルこそが大きな伏線だと言えます。「失われた貌」とは最初に発見された顔を潰された死体を指していると思いきや、読了後はまた違った意味を持ってこのタイトルが胸に迫ってくることでしょう。興味を持った方は、ぜひ手に取ってみてください。
[文・鷺ノ宮やよい]
