連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第81回 『ラスト・ショック‼ 恐怖の半獣(ミュータント)』

『ラスト・ショック‼ 恐怖の半獣(ミュータント)』※VHS廃番

『ラスト・ショック‼ 恐怖の半獣(ミュータント)』
1987年・アメリカ・87分
監督/ジョセフ・J・カタラノット
脚本/マーティン・フォルス、テリー・ヘッブ
出演/ビリー・ホリデー、チャック・ブッシュほか
原題『TERROR IN THE SWAMP』


 レンタルビデオ時代にVHSでリリースされていた劇場未公開作品が、インディーズ・メーカーから続々とDVD化される昨今、今回紹介する作品は未だリニューアルの兆しがない。筆者はVHSテープ生産終了後に、当作品のレンタル落ちビデオを中古ビデオ屋の500円均一セールで入手した。だがほとんど貸し出されなかった様子で、映像がキレイだったことは嬉しいというか哀しいというか。ジャケットの表紙はメインの怪物ではなく無名の中年俳優が飾り、キャッチコピーは「ラストまで足跡と影しか見せないミュータントの意外な正体は......!?」。それで「ラスト・ショック」か。松竹ホームビデオのスタッフは、観る者をワクワクさせようと頭を捻って戦略を打ったようだが......。

 夜が明けるイリノイ州の大湿地帯に「ガオオ~!」と野獣の咆哮が響き、ジョーズのテーマをパクった曲が緊張感を盛り上げタイトルイン。正体不明の怪物(姿は見せない)が唸りながら、ワニのいる沼地の浅瀬をピチャピチャと歩いている。怪物はカピバラを小さくしたようなヌートリアと遭遇し「ウガ~!」。するとヌートリアは「ミュミュミュミュ」。2匹は何かお話をしているようだ。そこで「ドギューン!」。銃声の方角へ向かった怪物は、ヌートリアを撃ち殺していたハンターをブッ殺す。
 やがて公園管理官のフランク(ビリー・ホリデー)がハンターの死体を発見し、釣り人らが集う船着き場まで運ぶ。湿地帯ではビッグフットのような怪物(まだ黒いシルエット)が、先ほどのヌートリアに「やってやったぞ」と言っているかのように唸り声を上げている。ヌートリアも「ミュミュミュミュ(ご苦労さん)」と答えている感じだ。

 この湿地帯にはヤバイ人たちも住んでいる。まずは猟と密造酒で生計を立てるジョーの一家。ジョーにはカッときたら人も殺める兄ジェシーと頭の弱い弟ボブの2人息子がいて、共にオーバーオールを着た巨漢の兄弟だ。親子は猟の邪魔をする密猟者(実は怪物だった)を見つけ次第殺そうとしている。ジェシー役のチャック・ブッシュは、『ファンダンゴ』(86年)で主演ケヴィン・コスナーの友人役で出ていた、この作品で唯一知られた顔。

 そして良質な毛皮が採れるヌートリアに人間のホルモンを注射して巨大化させる実験を行うロバーツ教授たち(そんなので大きくなるのか?)。実は教授の研究所から、生体実験中のヌートリアが逃げ出していた。さらにハンターの死体検死結果で、採取された毛・爪の破片・爪痕がヌートリアの物と一致する。ラストに行くまでもなく、早くも序盤でわかってしまう半獣の正体(笑)。仮面ライダーの怪人はおろか古今東西のSF映画にも例がない、確かに意外なヌートリア男だ! ちなみに劇中ではヌートリアを「沼ダヌキ」と呼んでいるが、これは和名「沼狸(しょうり)」を邦訳に当てたのだろう。

 翌朝、小屋で一人キャンプをしていた婆さんが怪物に襲われ、ライフルをぶっ放して何とか追い払う。銃声を聞いた住人に保護された婆さんは「毛むくじゃらで人間みたいなヌートリアを見た」と怯えている。これを聞いて誰も信じない中、唯一青ざめているロバーツ教授は婆さんを研究所に軟禁する。警察に届けようと言う助手に、教授は「捕獲して殺すんだ。婆さんも帰すな」と隠蔽を図り、「資源開発工事の環境悪化で突然変異した動物を捕まえた者に1万ドルを進呈」と環境破壊のせいにしたビラを村中に配布する。

 ビラの効果はてき面で、船着き場には腕自慢のハンターが乗るモーターボートが100艇も集結する。ヘリに乗った保安官補が拡声器で「全面通行禁止だ。岸へ戻らないと逮捕する」と警告するが、金に目がくらみ怪物狩りにエキサイトした彼らは暴徒と化し発砲してくる。この状況にフランクは、近くで殺虫剤を撒いているセスナ機に無線で「あいつらに撒いてくれ」(ムチャな!)。セスナ機に超低空飛行で殺虫剤をブッ掛けられたハンターらは、パニックになって退散していく。その間にもヌートリア男は、ジョーや密猟者を殺しながら徘徊しているが......上映開始1時間6分、一瞬だがようやく陽光で上半身が見えた! 気のせいかただのゴリラの着ぐるみにしか見えないが......。

 一方、責任逃れを図るロバート教授らは、研究を放り出して婆さんを連れて逃亡する。「ここを渡れば街道に出られるよ」と婆さんに教えられた教授と助手が沼地の浅瀬を歩いていく。だが岸で見送る婆さんが「言い忘れたけど、そこは底なし沼よ」。「うわ~助けてくれ~!」と教授たちは水没していく。それを見て「あ~ひゃっひゃっひゃっ!」と笑いが止まらない婆さん。やがてヘリが岸に座ってバカ笑いしている婆さんを発見し保護する。

 ここからクライマックス。ジェシーが大量の爆薬を隠した密猟者のアジトを発見し、中で密猟者を待ち伏せしていると、いきなりヌートリア男が襲撃(ここでも姿をはっきり映さない)。そこへ保安官が呼びよせた元グリーンベレー隊員で組織された怪物討伐隊が到着し、窓に映る怪物の影を銃撃。「ドカーン!」と爆薬に着弾して爆発炎上する小屋。隊長「何がいたんだ?」。フランク「わからんが沼ダヌキだろう」で完。

 「ミュミュミュ~(嘘つき~)!」。ラストになっても映さないヌートリア男の全貌。これは恐らくヌートリア男のスーツを制作する予算がなく、どこかからか借りて来たゴリラ・スーツは要返却なので改造できない。だからハッキリ映すわけにいかなかったのだろう。

 それにしても苦肉の策の松竹ホームビデオ。メインの怪物を隠した地味なオッサンのジャケットを見て誰が借りる? ここは嘘でもいいからイラストで恐ろし気なヌートリア男を描き、直球勝負で『怪奇! ヌートリア男』にしておけば普通にレンタル回転率は上がり、後世語り継がれるモンスター映画となっていた......かも?

(文/天野ミチヒロ)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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