連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第77回 『人喰い猪、公民館襲撃す!』

人喰猪、公民館襲撃す! [Blu-ray]
『人喰猪、公民館襲撃す! [Blu-ray]』
オム・テウン,チョン・ユミ,シン・ジョンウォン
キングレコード
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 あけましておめでとう! 2019年の干支は亥だが、猪の生物パニック映画と言えば、広大なオーストラリア平原を舞台にした『レイザーバック』(84年・豪/85年日本公開)。デュラン・デュランやクイーンなど、80年代を代表するミュージック・ビデオ監督のラッセル・マルケイが撮ったことで話題になった。でも、ここで紹介するのは公民館を襲う猪(笑)の作品。このローカル色強い素敵なタイトルを考えた人には座布団10枚だ。


 舞台はソウル郊外の山村。ある夜、ハンターが立ちション中に山から滑落する。そこに暗闇から唸り声を上げた正体不明の野獣が現れ「ベキベキ! ムシャムシャ!」。無免許飲酒運転の車に轢き逃げされた少女も、朦朧とする意識の中「ベキベキ!」と野獣に生きたまま食われていく。10年間犯罪のない村で人間の肉片が発見され、墓では遺体が荒らされ、ソウル本庁からシン刑事が派遣される。現場に転がっていた少女の首の身元は、村の銃砲店主チョンの孫と判明する。

 その日、認知症の母親と身重の妻を抱えたキム巡査がソウルから異動してくる。隣人は、常に赤ん坊の人形を抱き鳥居みゆきみたいなメイクをしたオバサンと少年。村長が「山で死んだ霊媒師の婆さんと暮らしていた子供を、頭のおかしい女が引き取って育てている」と説明してくれるが、謎すぎる情報量の多さで理解できない。

 日曜日、週末農場(都会人が週末に農作業する賃貸農場)に巨大な猪が襲来して客が重傷を負う。銃砲店主のチョンは「自然破壊や密猟で、飢えた獣が墓を掘り起こし人間の味を覚えた」と看破する。ここで腕利きハンターのペクが農場主に呼ばれ、2匹の猟犬で猪を追い込み見事に仕留める。ペクはチョンを見つけ「伝説のハンターが、こんな田舎で隠居とは」と皮肉を言う。若き日のペクはテレビに出て有名になりたかったため、先輩で師匠のチョンの元を離れていったのだ。だがチョンは死体を見て「こいつではない。より巨大なつがいのオスがいる」

 その夜、ワラや農機具が置いてある広い納屋で、人喰い猪捕獲を祝して村人を集めた飲み会が行われる。仏頂面で酒を飲むペクに猟犬が話しかける。「おい、浮かない顔だな。オマエ何か隠しているだろ?」。ペク「黙れ」。猟犬「わかったよ、そんなに怒るなよ」。巨大なオスの存在を恐れるペクの心情を表現した秀逸な演出だ。

 宴もたけなわ、「ピギャア~!」と壁をブチ破って顔だけで1メートルはあるバッファロー・サイズのオス猪が出現! 猪は次々と人を跳ね飛ばして荒れ狂う。村人がチェーンソーで立ち向かうが牙で刃を折られ、ペクの弾丸も跳ね返す(そんなバカな!)。トラクターの中で震えている警官がケータイでキム巡査に「公民館に猪が出ました!」。えっ? 納屋じゃなくて、ワラが積んであるここが公民館だったのか(笑)!

 キム巡査らが駆け付けると公民館内はメチャクチャ。ドラム缶の陰で小便漏らしているペクを見つけたチョンは「何やってたんだ!」と殴りつける。翌朝、山々を見渡す湖畔に墓標を立てているペクとチョン。そこには名前が入った2つの首輪が掛かっている。あ、あの襲撃で猟犬が2頭とも......。涙を流すペクに愛犬の声が響く。「そんな顔すんなよ」「また会えるさ」。離れた所でタバコをふかすシン刑事。泣けるシーンだ。

 孫を食われたチョン。愛犬を殺されたペク。猪を研究している変わり者の女性スリョン。新任のキム巡査と腐れ縁のシン刑事(殺人事件じゃないのに帰庁しなくていいの?)。ここに5人の猪バスターズが結成された。

 チョンが人喰い猪の出自を話す。日本統治時代、日本軍が持ち込んだ豚と野生の猪を交配した結果、虎でも勝てない体重500キロの猪が繁殖した。国中から集まったハンターの殆どは死ぬか再起不能となり、チョンの父親は左目を失いながら稲妻落としという巨岩の下敷きにする罠で仕留めたのだという。

 やがて5人は猪が留守の間に巣穴と5匹のウリ坊を見つけ、「可愛い~」と愛でるスリョンとシン刑事の目前で、ペクが「やがて怪物になる。根絶やしだ」と次々に刺殺し、火で焼いてしまう。チョンは「使えそうだ」と1匹だけ生け捕りにする。やがて巣穴に戻った猪は、丸焼けになった子供たちを見て激怒! 5人の野営地を襲撃し、ペクに瀕死の重傷を負わす。

 大ピンチにシン刑事は「応援を呼んでくる!」とキム巡査に丸投げして山道を下っていくと、鳥居みゆきオバサンとばったり遭遇。「生気を抜かれる~!」(あんた刑事でしょ)と叫びながらズボンを強引に脱がされてしまう。......何、このシーン? シン刑事を演じたパク・ヒョックォンは、韓国では『アナと雪の女王』の雪だるまオラフ似(笑)と評判で、人間の持つ複雑多様な側面をさりげなく表現する実力派俳優だ。

 さて、キム巡査とスリョンは猪に追われながら無人の工場に逃げ込み、「稲妻落としだ!」と業務用エレベーターを降下させて押し潰し、ダイナマイトでとどめ! 生き残ったウリ坊が鋭い目でカメラを睨む......。よくあるラストシーンのお約束、と思ったらまだ終わっていなかった。山小屋の中、オムツを穿かされたペクが天井から吊るされている! ペクも観客も「え? え?」。ここはネタバレを避けておこう。


 ストーリーとは無関係に随所でオバケ扱いされるオバサン、そして衝撃のラストなどツッコミ所は多い。個性豊かな登場人物たちが楽しいオススメの1本だ。

(文/天野ミチヒロ)

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『人喰い猪、公民館襲撃す!』
2009年・韓国(日本公開2011年)
監督・脚本/シン・ジョンオン
出演/オム・テウン、チョン・ユミ、チャン・ハンソン、パク・ヒョックォンほか
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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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