第78回 『手首切断! 悪魔のゾンビノイド』
『手首切断! 悪魔のゾンビノイド』 VHS版ジャケット ※廃番
筆者の小学生時代、夜光塗料で光る手首のプラモデルを2階の窓から吊るして上下させ、夜道を歩く女性を「キャッ」と驚かせていた。そんな手首の化け物が登場する作品と言えば『アダムス・ファミリー』(91年)だが、メインで扱った作品は、フランケンシュタイン博士役などで知られるピーター・カッシング主演『スクリーミング 夜歩く手首』(73年)と、『プラトーン』(86年)のオリバー・ストーンが無名時代に撮った『キラーハンド』(81年)の2本が双璧であろう。まあ、どちらも失敗作だが(笑)、その3番手に着く大失敗作が今回紹介する作品。近年『ゾンビノイド 悪魔の手首』という改題でDVD化されたので、これから観る人にはネタバレ注意(特にラスト)。
監督は、蜂の大群が人間を襲う大作『スウォーム』(78年)をパクった『ザ・キラー・ビーズ』(78年)のアルフレッド・ザッカリアスと聞けば、違う意味で期待できよう。
昔々のメキシコ、グアナファト(現ユネスコ世界遺産)にある洞窟内。白人至上主義結社KKKみたいな三角覆面を被った白装束の連中が行き来している。その中の一人の女が手首を模った銀のケースを神殿から盗み出すが、やがて追手に捕まり衣服を破られオッパイ丸出し(鑑賞者サービス)にされ、左手を刀で切り落とされてしまう。手首は指でトコトコ歩き出すが、ケースに収納されてしまう。ケースは空だったんだ。女は何者? なぜケースを盗んだの? 最初に言ってしまうが、それは最後まで解らなかった(汗)。
それから数百年後のグアナファト。ある銀鉱から300年前の遺跡と左手のないミイラが発見される。村には悪魔の手首にまつわる伝承があり、怖気づいた現地作業員たちは全員ボイコットする。困った鉱業権者のヘインズに、奥さんのジェニファーが「女の私が坑内の奥まで行って無事に帰ってくれば、迷信だと証明できるわ」と提案する。この美人奥様を演じたのは、女性監禁モノの古典『コレクター』(65年)や、人間ミンチでカルト人気の『エクスタミネーター』(80年)でヒロインを演じたサマンサ・エッガー。
夫妻は坑の最深部で、ミイラ化した赤ん坊が捧げられた祭壇と、左手がない悪魔像がそびえる神殿を発見。冒頭の連中は悪魔崇拝者だったのだ。バチ当たりのヘインズは供えてあった例の手首ケースを持ち出し、地上に待たせている作業員らのもとに帰還するや否やそれを高々と掲げ「ヘーイ、悪魔の手を見つけたぞ~。さあ作業だ」。驚いた作業員たちはジリジリと後ずさり、全員その場から逃げてしまう。人心掌握術ゼロのヘインズ(笑)。
その夜、ケースの中に入っていた灰が見る見る手首の形に復元。モゾモゾと歩き出し、寝ているジェニファーの足を這っていく。悲鳴を上げるジェニファーに飛び起きたヘインズは、エロ手首ことゾンビノイドと一戦(手首の作り物と必死に格闘する役者)。ここでゾンビノイドはヘインズの左手に憑依する。翌朝ヘインズは、嫌がる作業員たちを無理やり坑内に集め、ダイナマイトで生き埋めにしてしまう。場面はいきなりカジノへ飛び、ゾンビノイドの超能力でバカヅキしているヘインズ。大量爆殺事件はその後どうなったのか? 警察の捜索など、そのへんは気持ちいいほどバッサリ省かれたまま話は進む......。
2名の人間を左手で殺害したヘインズは理性を取り戻して左手を切断しようとするが、ゾンビノイドの逆鱗に触れ、焼身自殺(自分の意志ではない)する。翌日、ジェニファーは夫の焼死体が仮埋葬されている教会へ確認に行くが、なぜか墓は空だった。
神父の通報で顔なじみの警官レオが墓地を巡回している隙に、黒焦げのヘインズが現れ、パトカーのドアに左手首を挟んで切断する。パトカーに戻ってきたレオの顔に、エイリアンのフェイスハガーのように貼り付くゾンビノイド。銃声を聞いた2人が墓地に駆け付けると、パトカーが去っていき左手がないヘインズの黒焦げ死体が転がっている。
翌日、ボクシングジムでレオと元ボクサーの神父が老骨に鞭打ちスパーリング。案の定、ゾンビノイドが憑依したレオは左パンチで神父をKO。ここ、神父が元ボクサーという設定は『エクソシスト』カラス神父のパクリと思うが、神父役を務めた往年の名優スチュアート・ホイットマンは、実際にボクシング経験者だ。
その後レオはジェニファーを拉致して病院へ行き、医師を銃で脅して左手を彼女に付け替えようとする。切断されたゾンビノイドはレオを殺すと、今度は医師に乗り移って左手をジェニファーに移植しようとする。この繰り返し、何がしたいのか解らない。ここは神父と警官が間一髪ジェニファーを救出し、逃げた医師は左手首なし死体で発見される。
ジェニファーは教会へ避難するが、ついにゾンビノイドは神父に憑依し、ジェニファーに迫る。理性を保つ神父は、聖書を暗誦しながら左手をガスバーナーで焼き切る。翌朝、2人は手首を海に沈めてしまう。
それから数日後、落ち着きを取り戻したジェニファーの家。屋内のアチコチが海水で濡れていると思いきや、突然流し台からゾンビノイドが現れ、ピョンッとジェニファーの後頭部に飛びつく。パニックになったジェニファーは髪の毛を掴んだゾンビノイドを振り払おうとグルグル回転。スッと意識を失ったジェニファーは前のめりに倒れていき、「ガッシャーン!」とガラステーブルに顔面から突っ込んで完。
ゾンビは出て来ないし、劇中でゾンビノイドなんて一言も言っていない。原題のデモノイドではイマイチと思った日本のビデオメーカーの戦略だから大目に見よう。全編通して退屈な映画だけに、ラストの「顔面ガシャーン」は衝撃的だった。そこだけはホラー映画の名作『サスペリア』のワンシーンを彷彿とさせる迫力ある演出だった。
(文/天野ミチヒロ)
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『手首切断! 悪魔のゾンビノイド』 (原題『DEMONOID』)
1982年・アメリカ=メキシコ合作・85分
脚本・監督/アルフレッド・ザッカリアス
出演/サマンサ・エッガー、スチュアート・ホイットマンほか