第76回 『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生』公開50周年企画 <幻のゾンビ映画特集 PART-5>『悪魔の毒々ゾンビーズ 蘇る死霊伝説』
『悪魔の毒々ゾンビーズ 蘇る死霊伝説』VHS版ジャケット
●ゾンビ映画の誕生
ゾンビとは元々、アフリカから中米ハイチに伝播したブードゥー呪術によって蘇らされ、農作業などに使役する罪人の死体を指す。そういった意味での世界初のゾンビ映画は『ホワイト・ゾンビ』(32年)だが、「人肉を食う。噛まれた者もゾンビになる。頭を破壊すれば停止する」といったお約束は、ジョージ・A・ロメロの3部作によって定義付けられた。
ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生』(68年)、『ゾンビ』(78年)、『死霊のえじき』(85年)は、現在に至るまで無数に製作されてきたゾンビ映画の原典にして頂点を極め、それらはブードゥーのクラシカルなゾンビとは区別され「モダン・ゾンビ」と呼ばれている。
今年10月1日、モダン・ゾンビの先駆的な作品『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生』が公開50周年を迎えた。
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『悪魔の毒々ゾンビーズ 蘇る死霊伝説』
原題:TOXIC ZOMBIES
1981年・アメリカ・90分
監督・脚本/チャールズ・マックラン
出演/チャールズ・オースチン、ビバリー・シャピロ、ジョン・アンプラスほか
80年代のホラー映画ブームの中にあって、独特なブラックユーモアで異彩を放っていたトロマ社の代表作『悪魔の毒々モンスター』(84年)。毒を以て毒を制する復讐ヒーローを意味する『THE TOXIC AVENGER』という原題も秀逸だが、配給した松竹富士の宣伝部長が命名した邦題もお見事だった。
作品はシリーズ化され、『悪魔の毒々ハイスクール』『悪魔の毒々サーファー』といった他のトロマ作品もレンタルビデオ市場を賑わした。これに目を付けた徳間ジャパンは、ビデオ用に買い付けた『TOXIC ZONBIERS』を、「TOXIC......何だか似てるな。今はゾンビ映画ブームだし......よし!」と『悪魔の毒々ゾンビーズ 蘇る死霊伝説』のタイトルでビデオ発売したと推測される。
さらに同時期のトロマ作品には『悪魔のゾンビ天国』も存在する。よって当時、全国で大勢のホラー映画ファンが、『悪魔の毒々ゾンビーズ』を同シリーズの作品と勘違いして借りてしまったであろう。実は両作品は全く無関係で、これぞレンタルビデオ戦国時代に各社が行ってきた、血みどろの権謀術数なのだ。
さて、監督のチャールズ・マックランは他にフィルモグラフィーが見当たらず、出演者も無名の俳優ばかり......と思ったら、いた! 一人だけ、ジョージ・A・ロメロに関わる重要人物が! それは、これからストーリーを追っていく中で明かそう。
アメリカのどこかの山中。ハンターの扮装をした二人組の男が、森の中で濡れタオルで体を拭いているトップレスの若い女を撃ち殺す。女の死体を見下ろす男たちの背後から、絞殺用ロープとナイフを持った2人の若者が襲いかかる。そこは大麻の栽培キャンプで、麻薬取締の摘発が入ったのだ(容赦なく撃ち殺す麻薬Gメンって......)。焦った若者たちは末端価格200万ドル分の大麻を諦め、持っていけるだけ刈り取って逃げることにする。
Gメンの連絡が途絶えた事を知ったワシントンにある林野局の管理職ブリックスは、危険な副作用があるため、まだ人体実験が済んでいない未認可の除草剤ドロマックスが500キロもの在庫を抱えていることを思い出す。「よし、どうせ奴らは犯罪者だ。そこにドロマックスを散布して人体への影響を見よう」とムチャクチャ言い出す。
この上司の言葉に困惑する部下のフィリップを演じたのは、ジョージ・A・ロメロ監督『マーティン 呪われた吸血少年』(77年)の主役、ジョン・アンプラス。『マーティン』で興行に失敗したロメロは、これでアンプラスと縁を切らず、翌年の『ゾンビ』で彼をキャスティング・ディレクターに起用。さらにロメロはゾンビ3部作の最終作『死霊のえじき』(85年)で、彼をヒロイン・サラの同僚テッド・フィッシャーに抜擢した。
さて、5人のメンバーがせっせと大麻草を採取している真上に「ブーン」とセスナ機が飛んできて「ブワァ~ッ」と盛大にドロマックスを散布。パイロットは、未認可の農薬である事も人がいる事も聞いていない。「こりゃタマラン!」とゲホゲホ咳き込みながらキャンプに戻った5人はドロマックスの副作用で毒々ゾンビーズと化し、テントにいて運よくドロマックスを浴びなかった2名を噛み殺す。一方、体中に農薬が付着したパイロットも毒々ゾンビとなり奥さんを殺していた。
さて、一帯の林野局支局長トム(主人公)は妻と弟を連れて、本局から立入禁止の通達があった北西部へキャンプに行く。山では、知的障害者の息子に大自然の空気を吸わせようと都会からやってきた家族もキャンプをしていた。黒ブタのヌイグルミを脇に抱えた息子は、姉とカエルやヘビを捕まえたりして自然を満喫している。
その頃、子供たちのためにバーベキューの用意していた両親は、森の中からゾロゾロと現れた毒々ゾンビーズに惨殺される。しばらくして姉弟がキャンプに戻ると誰もいない。両親を探す姉弟と出会ったトム夫妻は、彼らを家族のキャンプに連れて行く。だがトムの弟が女の毒々ゾンビに岩で頭を叩き潰され、トムらは森の中の一軒家に逃げ込む。日が暮れると、どこで入手したのか松明を持った毒々ゾンビーズが近づいてきて主人を殺し、家に火を点けて燃やしてしまう。トムらは必死に抵抗して脱出する。
夜が明け、ワシントンの本局からドロックス使用に関してトムの口封じにやってきたブリックスとフィリップが、歩いているトムらを発見し車に乗せて寂しい場所で降ろす。トムはライフルを突き付けられるが、そこへ毒々ゾンビーズ登場! トムの妻は知的障害児を助けて犠牲になり、フィリップは毒々ゾンビに食いつかれて死亡。トムはブリックスに射殺されそうになるが、かろうじて返り討ちにする。事件後、本局に新しいポストを用意されたトムは、職を捨て両親を失った姉弟に会うため旅に出る(泣かせるぜ)。
毒々ゾンビーズは「頭を破壊しないと死なない」どころかナイフで刺されて簡単に死に、噛まれても感染しないなどゾンビの定義には当てはまらない。奴らは単なる農薬の副作用でおかしくなった病人なのだが、この頃は「ゾンビ風の怪人」が大手を振っていた時代だから大目に見よう(笑)。このつまらない映画(言っちゃったよ)にとって、ジョン・アンプラスの出演だけが唯一の価値かもしれない。
(文/天野ミチヒロ)