連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第72回 『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生』公開50周年企画 <幻のゾンビ映画特集 PART-1>

恐怖城 ホワイト・ゾンビ [DVD]
『恐怖城 ホワイト・ゾンビ [DVD]』
ベラ・ルゴシ,マッジ・ベラミー,ロバート・フレイザー,ブランドン・ハースト,ジョセフ・コーソーン,ジョン・ハロン,ジョン・S・ピーターズ,ヴィクター・ハルペリン
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●ゾンビ映画の誕生
ゾンビとは元々、アフリカから中米ハイチに伝播したブードゥー呪術によって蘇らされ、農作業などに使役する罪人の死体を指す。そういった意味での世界初のゾンビ映画は『ホワイト・ゾンビ』(32年)だが、「人肉を食う。噛まれた者もゾンビになる。頭を破壊すれば停止する」といったお約束は、ジョージ・A・ロメロの3部作によって定義付けられた。
ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生』(68年)、『ゾンビ』(78年)、『死霊のえじき』(85年)は、現在に至るまで無数に製作されてきたゾンビ映画の原典にして頂点を極め、それらはブードゥーのクラシカルなゾンビとは区別され「モダン・ゾンビ」と呼ばれている。
今年10月1日、モダン・ゾンビの先駆的な作品『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生』が公開50周年を迎える。

◆◆◆

『ホワイト・ゾンビ』
(日本公開題『恐怖城』)
1932年・アメリカ・73分
監督/ヴィクター・ハルペリン
出演/ベラ・ルゴシ、マッジ・ベラミー、ジョン・ハロンほか

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『ホワイト・ゾンビ』(初版)

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『ホワイト・ゾンビ』(アップリンク版)

 今月から知られざるゾンビ映画を数カ月に渡って紹介していこうと思うが、まずは「世界初のゾンビ映画」に敬意を表し、『ホワイト・ゾンビ』からスタートしよう。
 1927年、ハイチのブードゥー・ゾンビを取材した『THE MAGIC ISLAND』(ウィリアム・シーブルック著)により、全米でゾンビ・ブームが起こった。このブームに乗っかろうとしたのが弱小会社のハルペリン・プロ。主役には1931年に『魔人ドラキュラ』で大ブレイクしたベラ・ルゴシを抜擢。ゾンビの特殊メイクは、誰もが思い浮かべるフランケンシュタインの怪物フェイスを生み出したジャック・P・ピアースを起用した。完成した『ホワイト・ゾンビ』は1932年に全米でヒットし、翌年には『恐怖城』というタイトルで日本でも公開された。なお1980年代から1990年代にかけて活躍したヘヴィメタル・バンド「ホワイト・ゾンビ」のグループ名は、この作品によるものだ。

 ニューヨークから中米ハイチに、ニールとマデリンの若い新婚カップルがやってくる。2人はまず、船内で知り合ったハイチの大地主ボーモンの屋敷へ向かう。港で教会でも見つけて式を挙げようとしていたノープランな若者に、式場として私邸を提供しようと言ってくれたのがボーモンだった。
 道行、2人が乗る馬車が足止めを食らう。「ウババ、ウババ」と合唱して踊る集団が、道の真ん中で葬式をしている。ハイチには死体泥棒がいるため、現地の人たちは人目に付く往来に遺体を埋めて盗まれ辛くしているのだという。異国の奇習に唖然とするニューヨーカーを乗せ、再び馬車を走らせる御者は林道を歩く男に道を尋ねる。アゴヒゲを蓄え、眉毛の濃さが目立つ怪紳士(付け眉毛のベラ・ルゴシ)は、無言でマデリンを見詰める。

 すると林の中から数人の男たちが、無表情でヨロヨロと近づいてくる。御者は「ゾンビだ!」と叫び猛スピードで馬車を走らせる。ボーモン家に到着すると御者は「奴らはリビング・デッド(生きる屍)です」と怯えている。そこへ、ハイチでの宣教師生活30年という老神父が現れる。ボーモンから2人の挙式の宣誓を依頼されたのだが、「彼はそんな世話好きな人間ではないはず......」と怪しむ老神父。
 ちなみに新婚カップル、ボーモン、神父、怪紳士は白人で、馬車の御者や労働者は現地の黒人。ハイチは複雑な歴史を持ち、作品公開時はアメリカ占領下にあった。

 その夜、ボーモンは大勢のゾンビが働く砂糖工場へ行く。動作は鈍いが、休憩なし賃金なしで働き、無駄口も叩かず待遇改善も叫ばない。雇い主にとって非常に都合のよい労働力だ。サトウキビを細かく刻む回転刃が付いた装置の中に、1体がよろけて落ちても誰も気に留めず黙々と働き続けるゾンビたち。工場主は例の怪紳士で、実はゾンビを作る魔術師だった。魔術師はボーモンから「いくらでも出すから、マデリンをモノにしたい」と頼まれ、秘薬ゾンビ・パウダーを渡す。老神父のイヤな予感は的中する。

 それから1時間後、ボーモン邸でニールとマデリンの挙式が始まる。ボーモンの豪邸にはパイプオルガンも完備したちょっとした教会設備がある。式の終盤、ボーモンがマデリンに秘薬を盛ると、彼女は急速に衰弱して死んでしまう。

 深夜の墓場にズラリと並ぶ魔術師のゾンビ5体。術を仕込まれた師匠、自分を死刑にしようとした死刑執行人など、邪魔者をゾンビにして手下に使っていたのだ。魔術師とボーモンはマデリンの墓を暴き、その棺をゾンビたちに運ばせる。墓からマデリンの遺体が盗まれた事に気付いたニールは、老神父と2人で犯人捜しを始める。

 その頃マデリンは、魔術師が住む海岸沿いの古城にいた。マデリンは実は死んではいなくて、秘薬と魔術で生けるゾンビにされていたのだ。ボーモンは、マデリンにいくら愛を囁いても無反応なので「元に戻してくれ」と要求するが、魔術師も彼女が欲しかったので、ボーモンに秘薬入りのワインを飲ませて動きを封じる。

 魔術師のアジトを突き止めたニールだが、一日中探し歩いた過労で城の中で力尽きる。魔術師の術で操られたマデリンがナイフでニールを襲う。間一髪で黒衣の人物が現れ、マデリンの手首をグッと掴みナイフを落とさせる。サッと後退りして消える黒衣の者はいったい誰だ?

 やがて城壁の踊り場で、ニールとゾンビ五人衆を引き連れた魔術師が対決! ニールはゾンビを銃で撃ちまくるが効果なく、下は岩礁になっている高さ数十メートルの城壁まで追い詰められ大ピンチ! すると黒衣の者がスーッと現れ魔術師を殴り倒す。今までどこで何をしていたのか、その正体は老神父だった! 老神父は都会のもやしっ子ニールと違い、さすが30年間ハイチ中を伝導してきただけあって元気イッパイ。老神父はニールに「伏せろ!」。するとニールめがけて直進してくるゾンビらは、地面に伏せる彼を跨いで岸壁から順番にホイホイ落ちて行く(笑)。老神父は指示も的確だった。


 ベラ・ルゴシはオーストリア=ハンガリー帝国(1918年に解体した多民族国家)出身で、アメリカに渡って間もないため英語をほとんど話せなかった。これはドラキュラ役でもそうだが、彼のハンガリー語訛りの英語と、舞台俳優独特のオーバーな演技は、逆にブードゥー呪術師としての神秘的な怪しさを醸し出すことに成功している。
 さて、その後もブードゥー・ゾンビ映画は数作製作されたがパッとせず、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』でゾンビの概念がガラリと変わる。

(文/天野ミチヒロ)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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