第75回 『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生』公開50周年企画 <幻のゾンビ映画特集 PART-4>『スペース・ゾンビ 吸血ビールス大襲来』
『スペース・ゾンビ 吸血ビールス大襲来』VHS版 ジャケット
●ゾンビ映画の誕生
ゾンビとは元々、アフリカから中米ハイチに伝播したブードゥー呪術によって蘇らされ、農作業などに使役する罪人の死体を指す。そういった意味での世界初のゾンビ映画は『ホワイト・ゾンビ』(32年)だが、「人肉を食う。噛まれた者もゾンビになる。頭を破壊すれば停止する」といったお約束は、ジョージ・A・ロメロの3部作によって定義付けられた。
ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生』(68年)、『ゾンビ』(78年)、『死霊のえじき』(85年)は、現在に至るまで無数に製作されてきたゾンビ映画の原典にして頂点を極め、それらはブードゥーのクラシカルなゾンビとは区別され「モダン・ゾンビ」と呼ばれている。
今年10月1日、モダン・ゾンビの先駆的な作品『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド ゾンビの誕生』が公開50周年を迎えた。
◆◆◆
『スペース・ゾンビ 吸血ビールス大襲来』
1983年・アメリカ・79分
監督・脚本/グレン・コバーン
出演/トム・メイヤーズ、ローラ・エリス、デニス・レッツほか
原題『BLOODSUCHERS FROM OUTERSPACE』
「人類滅亡の危機! "謎のキャトルミューティレーション"とは!?」というキャッチコピーが、表紙ではなく面積の狭い背表紙に詰め込まれた徳間コミュニケーションズのビデオパッケージ。キャトルミューティレーションとは、1970年代のアメリカで血が抜き取られ臓器がレーザーで摘出されたような家畜の死体が発見され、その際UFOが目撃されていた怪奇現象のことだ。
舞台はテキサス州のコマンチ郡。血液が一滴も残っていない農夫の変死体が発見され、保安官の捜査が入り新聞記者のジェフ(主人公)も取材を開始する。野次馬が「ハチェット・クリークのホ○野郎の仕業だ」。「よせよ。信心深い人たちだ」と話している。彼らが指しているのは、現場から100キロほど離れた集落に住むメソジスト教徒(イギリス発祥のプロテスタント)のことだが、現在ならアウトな台詞だ。
同地域には政府直轄の研究所があり、ジェフの兄ラルフが助手として働いている。実験台にはゾンビみたいに変貌した研究所の所長ペース博士が縛り付けられている。最近この一帯で、なぜか体中の血液を失い吸血鬼になる現象が多発していた。ペース博士も吸血鬼になり、助手たちが拘束して秘密裏に解析していたのだ。
そこへ米軍のサンダース将軍が来訪し、ペース博士に面会を求める。所長が吸血鬼になったとは言えない助手らは「博士は留守で」と誤魔化して異常事態を報告する。それは大気圏外から地球に飛来したビールスのように微小なエイリアンで、突風に乗って呼吸器官から人体に侵入し、その人間を吸血鬼にしてしまうのだ。お供の少佐が「BLOODSUCHERS FROM OUTERSPACE(外宇宙からの吸血鬼)?」と驚くが、それが作品の原題だ。トビー・フーパー監督の『スペースバンパイア』(85年)より2年早いが、そっちは全裸の美女だったのに対し、こちらはゾンビのルックスだから『スペース・ゾンビ』か。
その頃ジェフは、大都会ダラスから車で家出してきたジュリーと知り合う。ジェフに「ヤクある?」と訊かれたジュリーは、笑気ガス(脱法ドラッグとしても使用される鎮痛用麻酔)を与える。エッチを済ませたジェフは(手が早いなあ、アメリカ人って)、ジュリーと共に育ての親である叔父(兄弟は幼少時に両親と死別)の家へ行く。
だが叔父も叔母もスペース・ゾンビになっていて、ジェフに襲いかかる。ジェフは農具で叔父の左腕を切り落とし、その傷口から血が噴き出す。叔父が自分の腕を拾って手にするシーンが、ビデオパッケージの表紙だ。冒頭でホ○発言をしていた野次馬もスペース・ゾンビになっていて、ジェフは80年代ホラー映画のお約束・チェーンソーで首を切り飛ばす。
ジェフは兄ラルフに会うためジュリーと共に研究所へ行く。すると講堂ではペース博士が聴衆に向かって「長い旅の末ここを発見した。新生物として生存するのだ」と講義の最中。そしてジェフに「君も同胞になるのだ」。客席にはラルフ以下ゾンビ顔になった助手たち。彼らもペース博士に血を吸われてスペース・ゾンビになっていたのだ。
2人は研究所を脱出して町へ行くと、「ウガ~!」とアチコチから、子供からオバサンからジイサンまで老若男女のスペース・ゾンビが湧いて出てくる。ちなみにゾンビ役はロケ地の住人で間に合わせている。ジェフとジュリーはその場を逃げ切るが、しばらくして、軍が「殺されてもかまわない」と送り込んだ3人の新卒兵士が到着する。だが、あっという間にスペース・ゾンビの群れにたかられて血を吸われてしまう。ジェフらは保安官の家に行くが、時すでに遅く彼もスペース・ゾンビと化していた。
人類滅亡の危機に、サンダース将軍は核の使用を決断する。ゾンビに核爆撃するラストは『バタリアン』(85年)より2年早い。サンダース将軍はホワイトハウスに電話をかけ、秘書を膝の上に乗せている大統領(ロナルド・レーガン?)に核兵器の使用許可を求める。大統領「そんなもの自国に落とせるか!」。サンダース将軍「しかし吸血鬼は共産主義者の謀略です」。「わかった、わかった。ただし小さいのにしておけ」と大統領が折れる。
行き場を失ったジェフが「落ち着こう」と車中で笑気ガスを吸っていると、「ピュ~ッ」と突風が。慌てて窓を閉めるが、すでに吸血ビールスは車内に侵入し苦しみ出す2人。その拍子に笑気ガスのバルブが外れ車内にガスが充満すると風はピタッと止む。吸血ビールスは笑気ガスで死滅した! ジュリー「あなたが人類を救ったのよ!」とジェフに抱き着く。
一方、サンダース将軍はコンピューターのキーボードを懸命に叩いている。だがサンダース将軍はコンピューターが苦手で、核ミサイル到達地点の決定に手間取り、「ええい! 多少誤差があっても死の灰で滅ぶだろう」と見切り発射。やがて荒野で抱き合ってキスしているジェフとジュリーの遥か先に「チュドーン!」と湧き上がるキノコ雲。核ミサイルは目標を100キロ逸れて、メソジスト教徒の集落へ着弾していた(汗)。
なんでもコバーン監督はテキサス在住のホラー映画ファンで、スタッフも俳優も素人の寄せ集めという自主映画同然の作品。ビデオ化されただけでも奇跡的なのに、なんと2013年にフォワードというメーカーから、「ネットファンからDVD発売要望の高かった幻のスプラッター・ホラー!」「圧倒的なストーリー!」という美辞麗句を並べて(笑)初DVD化されている。30年前のVHS発売時にカットされたシーンを加えたことにより「ストーリーに深みが増した完全版」という触れ込みだが、たった2分の追加シーンでどんな深みが増したのか、申し訳ないが怠慢な筆者は未確認だ。興味ある方はチェ~ック!
(文/天野ミチヒロ)