もやもやレビュー

移民の街のウエスト・サイド物語 『イン・ザ・ハイツ』

イン・ザ・ハイツ(字幕版)
『イン・ザ・ハイツ(字幕版)』
ジョン・M・チュウ,リン=マニュエル・ミランダ,アンソニー・ラモス,メリッサ・バレラ,レスリー・グレース,コーリー・ホーキンズ
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ブロードウェイにて上演されていたミュージカルを映画化したこの作品、冒頭からラテンミュージックが流れ、瞬く間に「ワシントン・ハイツ」に引き込まれた。

ラテン系の移民が多く暮らす、マンハッタンのワシントン・ハイツ地区。その歴史は古い。17世紀にヨーロッパ人がニューヨークに入植してきて以来、開発されていない土地だったが、アメリカ独立戦争(1775〜1783)の際、標高の高かったこの地に要塞を築いた。当初はアイルランド人とユダヤ人が多い地区だったが、1950年代よりカリブ海からのヒスパニック系の住人が増加。現在20万人近くもいる住民のなかで、最も多数を占めるのがドミニカ共和国人とその子孫たち。街にはスペイン語が行き交っているという。

『イン・ザ・ハイツ』はワシントン・ハイツの移民たちが悩みを抱えながらも、助け合い、前向きに生きる様を描く。物語の中心になるのは4人の若者。故郷を夢見ながらコンビニエンスストアを営むウスナビ、ウスナビの親友でタクシー会社で働くベニー、名門大学へ進学したにも関わらず差別にあうニーナ、デザイナーを目指すバネッサ。幼なじみの彼らは仕事や進学、恋につまづき、厳しい現実に直面しながらも、とある真夏の夜、大停電が発生したことをきっかけに、逆境に立ち向かい、それぞれの一歩を踏み出そうとする。

実際にワシントン・ハイツでロケをしているのだろう。リアルな街の雰囲気と、そこで繰り広げられるエネルギッシュなダンスがいい。「誰もが働き、夢を追う。この町では少し歩けば、誰かの大きな夢に当たる。」このセリフが胸に突き刺さる。観るすべての人が主人公になれる。そんな群像劇だ。

(文/峰典子)

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