もやもやレビュー

『83歳のやさしいスパイ』を観て、老後について考えた。

83歳のやさしいスパイ(字幕版)
『83歳のやさしいスパイ(字幕版)』
マイテ・アルベルディ,セルヒオ・チャミー,ロムロ・エイトケン,マルタ・オリヴァーレス
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『007』『ミッションインポッシブル』など、スパイ映画は数多くありますが、本作は一風変わったスパイ映画でした。

主人公のセルヒオは83歳のおじいちゃん。妻を亡くして以来、張り合いのない人生を送っていたところ、80~90歳の男性が条件という探偵事務所の求人に応募し、スパイの仕事に採用されます。
任務は、特養老人ホームの入居者が虐待されているかもしれないという疑惑があり、老人ホームに自ら入居して疑惑について調べるというものでした。

携帯電話の扱い方を教わることから始め、眼鏡型の隠しカメラの使い方や報告のための暗号を覚えたりと悪戦苦闘しながら、老人ホームに潜入(入居)します。潜入してからも、虐待されているかもしれないというターゲットがなかなか特定できなかったり、一生懸命になって雇い主への報告が遅くなって叱られたりと、83歳のおじいちゃんが孤軍奮闘する様子がコミカルに描かれます。

施設には、25年も入居している人や、母親が迎えに来てくれると信じているものの実際は母親が相手だという電話も実は施設のスタッフがしている程に家族と疎遠になっている人、家族が長い間面会に来てくれず、成長した娘や孫に会いたがっている人など、寂しい想いを抱えているおばあちゃん達がいました。
セルヒオは、そんなおばあちゃん達の話し相手となり、優しく話を聴いたり、寄り添ってあげます。そうして、自然と人気者になり、施設の人気ランキング1位になって表彰までされます。スパイという役目で入居したのに、めちゃくちゃ目立ってしまうという......。

おばあちゃん多めの施設で、人気を獲得して意図せず目立っちゃうおかしさや、セルヒオとおばあちゃん達のほのぼのとしたやり取りもありながらも、入居者たちの寂しさや孤独を感じるシーンもしばしば。

親や祖父母の遠くない将来を想像したり、いつかは自分もそうなるのかもと思いめぐらせたりしました。介護に直面している人もそうですし、これまであまり接点の多くなかった人にとって、老人ホームや介護について考える良い機会ともなる本作です。
余談ですが、本作は実在する老人ホームの許可を得てスパイとは明かさずに撮影されたそうです。ドキュメンタリー映画である点にも注目です。

(文/森山梓)

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