尼崎で育った少年時代、東京での地下芸人時代......苦節30数年のチャンス大城が語る強烈な半生

僕の心臓は右にある
『僕の心臓は右にある』
大城文章(チャンス大城)
朝日新聞出版
1,540円(税込)
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 4月27日(木)放送の『アメトーーク!』で「苦節33年 チャンス大城芸人」として取り上げられた芸人のチャンス大城さん。その半生を振り返った自伝的エッセイ『僕の心臓は右にある』が出版されました。「心臓が右にある」は、内臓の配置が反転している"内臓逆位"である大城さんを説明するうえでの大きな特徴のひとつですが、同書にはほかにも実話とは思えないような驚くべきエピソードが満載です。

 大城さんは自分が生まれ育った兵庫県の尼崎について、「おもろい人、変な人、怖い人、アブナイ人らが毎日夢のオールスターゲームをやっているような、そんな町でした」(同書より)と振り返ります。家具がひとつもないバラックのような家で暮らす友だちのウメヤマ、爪が伸びすぎて歩くとタップダンスのような音を立てる兄、コーラスが大好きなのにあまりに音痴で教会の聖歌隊から戦力外通告される父......面白エピソードには事欠きません。

 なかでも「心臓が右にある」という共通項から漫画『北斗の拳』の登場人物になぞらえて「サウザー」というあだ名をつけられていた大城さんが、「J中にはサウザーという最強の喧嘩王がいるらしい」と間違った噂を立てられ、隣町の最強番長に乗り込んで来られたというのは、バラエティ番組などでも話している有名な話です。すでに聞いた話なのに、本で読んでも吹き出してしまいます。

 そのいっぽうで、小学生の頃から受けていた壮絶ないじめの話も印象的です。不良グループから殴る蹴るの暴力を受ける、万引きを強要される......。定時制高校に通うようになっても凶悪な集団に目をつけられ、山中で首から下を埋められて死を覚悟したこともあったそうです。上京してからも鬱病を患い、希死念慮(死にたいと願うこと)に捕らわれ、酒に溺れて失敗したこともあるという話が飛び出します。しかし大城さんは、生きていればこそ、すべて笑いにできるとしており、同書には大城さんからの「生きているだけですごい」「みんなも生きて」というメッセージがたしかに込められています。

 「自分には路上魂がある」と大城さんは言います。「道端に転がされて不良にボコボコにされながら、相手に信管抜いた手りゅう弾をパッと手渡すような、一発ブチかます魂がある」(同書より)。私たちがテレビに映る大城さんからなぜだか目が離せなくなってしまうのは、彼の笑いの奥にそんな生き様を垣間見るからなのかもしれません。想像を絶する数々の体験のなかにもあたたかな人間賛歌を感じる同書は、チャンス大城という芸人同様、多くの人の記憶に残る一冊になるでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]

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