「書く」ことは「編む」ことと似ている――。人気ニットデザイナーによる初エッセイ集

編めば編むほどわたしはわたしになっていった
『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』
三國 万里子
新潮社
1,650円(税込)
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 「わたしにとって『書く』ことは『編む』ことと似ている」と言うのは、ニットデザイナーの三國万里子さん。初めてのエッセイ集『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』で、「書きたいこと(あるいは書かれることを待っている何か)を探し、拾いながら、物語の糸のようなものをたぐりたぐり進んでいくと、いつの間にか歩いた分の地図が作られ、しかるべきゴールにたどり着く。それはわたしのセーターの作り方にとても近い」と語っています。

 新潟で生まれ、愛情深い家族に囲まれて育ち、学校になじめなかった少女が、やがて東京に出て、夫となる男性と出会い、ひとり息子に恵まれ、編みものの世界に自身の居場所を見つけ出す......。同書には、そんな三國さんの半生がさまざまな思い出や出来事とともにランダムに綴られています。

 「25歳の冬から春にかけて半年ほど喫煙していた。1日に3本、ノルマのように」との書き出しから始まるのは、同書の最初に収録されている「三國さん」。彼女がなぜ好きでもないタバコを吸っていたのかというと、それは当時恋をしていた「三國さん」が好きなものだったから。

「煙はわたしの肺から血管に入って、全身をめぐる。これは、体に悪いんだろうな。でも三國さんの体に入ってるのと、同じ毒だ。そう考えるとうれしい」(同書より)

 まるで恋愛小説の一節を読んでいるかのような文章で、彼女の文筆家としての能力の高さに初っ端から驚かされます。

 これに限らず、彼女のエッセイは素朴で繊細ながらぬくもり豊か。幼いころから書物に親しみ、早稲田大学第一文学部仏文科を出ている彼女にとって、書くことは編むことと同じぐらい身近で、自身を開放させるものなのでしょう。詩人の谷川俊太郎さんはその才能を「編む指と書く指が一つになって生み出す日々の模様の暖かさ」と評しています。

 同書には、自身の宝物との出会いを綴った「腕時計」「人形遊び」「うさろうさん」や、家族とのつながりに心があたたまる「父」「母」「ひろしおじ」「たけばば」、料理家として活動する妹・なかしましほとの関係性が伝わる「妹と銀座」、息子への愛情を食を通して描いた「たい焼き」など全部で29のエッセイを収録。彼女が作り出す編み物のように彩り豊かな日々の連なりは、読む人の心に優しさやなつかしさ、あたたかさといった感情を呼び起こしてくれるでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]

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