戦争や外交協定の背景にある各国の思惑とは? 世界史のウラで起きていたこと

お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる
『お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる』
大村 大次郎
KADOKAWA
4,110円(税込)
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世界各国でテロ騒動を起こしているイスラム国だが、元をたどればアメリカの起こしたイラク戦争が建国の要因となっていることをご存知だろうか。イスラム国の幹部たちのほとんどがフセイン政権に属していた人物だという。

湾岸戦争直後、イラク国内ではクルド人やイスラム系シーア派が暴動を起こしたが、フセインが武力で鎮圧。アメリカはイラクで新しい政党が台頭しないよう、あえてフセイン政権を残したのだ。

しかしフセインは湾岸戦争後に反米色を強く打ち出す。石油取引をドル建てからユーロ建てに変更したのがその最たるものだろう。これに怒ったアメリカは2003年にイラク戦争を起こした。「イラクが大量破壊兵器を隠し持っている」という理由から開戦したが、実際に大量破壊兵器など見つかっておらず単なる言いがかりの可能性もある。

「歴史を本当に動かしているのは、お金、経済である。『出来事』『政治』の裏には、必ず何かしらのお金の問題が絡んでいる」(同書より)

今回ご紹介するのは、書籍『お金の流れで探る現代権力史「世界の今」が驚くほどよくわかる』(KADOKAWA)。著者の大村大次郎氏は元国税調査官で、現在は税金や会計にまつわる書籍を執筆するフリーライターだ。同書は世界史上で起きた戦争や外交協定の裏には、もれなく「お金」や「資源」が絡んでいたことを分かりやすく教えてくれる。

「戦争というものは大概が、利権が絡むものである。純粋な道徳上の大義のみで行われる戦争など、ほとんどない」(同書より)

例えば冒頭に挙げた湾岸戦争。アメリカは冷戦時代に使用するはずだった武器をそのまま使い(冷戦直後のタイミングだった)、軍費は日本をはじめとする諸外国に支払わせた。戦争後はアラブの石油の利権まで掌握。「アメリカにとって経済効率の良い戦争だった」と大村氏は語る。湾岸戦争もイラク戦争も正義の鉄槌を下すかのごとく起こしたように見えるが、実はアメリカが儲かっただけの戦争といえるだろう。

「中東の王国が、民主化せずとも生きながらえてきたのは、アメリカとの密約があったからである。つまり、石油取引をドル建てで行う代わりに、アメリカは中東を攻撃しない。(中略)そしてアメリカのドルは、石油取引を一手に引き受けることで国際基軸通貨としての地位を確固たるものとしてきたのだ」(同書より)

アメリカは対外債務(外国に対する借金)が日本円にして750兆円ほどある、実は世界一の借金国だ。それなのになぜ現在も世界経済で覇権を握っているかというと、基軸通貨を持っているためである。

「アメリカは、ドルの基軸通貨を守るためには、戦争さえすることになる。

イスラム国を誕生させたのは、イラク戦争であり、アメリカである、という事実からも、我々は目をそらしてはならないのである」(同書より)

アメリカが利権のために戦争を起こしフセインを利用した結果、世界中の人がテロに怯える現在へとつながってしまった。

アメリカが世界経済を掌握している背景にあるのがソ連との冷戦終結である。この東西冷戦も軍事合戦というよりは経済合戦に近かったという。お互いの国の味方にならないよう、諸学国への金銭的支援を断れなかったのだ。ゴルバチョフ書記長の就任後、冷戦は一気に終結へ向かうこととなるが、その裏には経済的に追い詰められた両国の姿がある。

「軍縮を目指したのは、『世界平和のため』ばかりでなく、両国が財政負担に耐えられなくなったから、ということも多分にあるのだ」(同書より)

冷戦直後、アメリカは日本に対してその後の日本経済に大ダメージを与える要求を突き付けている。現在日本の抱える巨額の「赤字国債」と「商店街のシャッター通り化」の元凶となる要求だ。

当時財政状況が最悪だったアメリカは日本にお金をバラまかせて内需を拡大し、アメリカの貿易収支を改善させようと目論んだ。1990年に海部首相がアメリカへの公約として10年間で430兆円の公共事業を行うことを明言。村山首相のときに上方修正され、最終的に630兆円にまで膨れ上がった。

またアメリカは自国の大型玩具店・トイザらスを日本に上陸させるため政府へ圧力をかける。当時日本には「大規模小売店舗法」という商店街を守るための法律があったのだが、無理矢理出店を認めさせた。2000年には「大規模小売店舗法」自体が消失。大手スーパーや複合施設などが続々と進出し、地域の商店街を苦しめている――。

同書は今まで何気なく見ていたニュースや学生時代の歴史の勉強が、「上っ面しか伝えていない」ことを痛感させられる1冊だ。「過ちを繰り返さないために歴史を学ぶ」と言われるが、そのためにはまず同書で「有事に至った背景にあるもの」を学ぶべきではないだろうか。

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