悩むだけムダ!? 生きているだけで価値がある! 自分の存在を肯定する歴史思考

世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考
『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』
深井 龍之介
ダイヤモンド社
1,650円(税込)
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いま「悩み」がまったくないという人はほとんどいないはずだ。「もっとお金を稼ぎたい」「20代のうちに起業したい」といったポジティブなものも、「自分に何が向いているか分からない」「勉強も運動も苦手で何も取り柄がない」といったネガティブなものもあるだろう。

しかし現代の私たちが向き合っている悩みは、実は取るに足らないものなのかもしれない。それに気づかせてくれるのが、深井龍之介氏の著書『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』である。

そもそも、なぜ人は悩むのだろうか。それは私たちが生きる社会に存在する無数の「当たり前」と、自分との整合性がとれなくなってしまうから。

「悩みの原因は僕たちの社会にある常識や価値観なんです。

価値観は絶対ではなく、場所や時代によって変わります」(同書より)

深井氏は同書の中でそう繰り返し述べている。悩みを生み出している「当たり前」が当たり前でないことに気づくことができれば、悩みはそもそも存在しなくなるのだ。そこで現代の「当たり前」を疑うために必要なのが、歴史を知ることだという。

「歴史を学ぶと、僕たちを取り巻いている常識や価値観が、決して当たり前ではないことに気づけます。

歴史を知ると、価値観が時代や文化によってうつろうものであることが理解できます。すると特定の価値観から自由になり、ムダに悩むことがなくなります。僕はこれを『メタ認知』と呼んでいます」(同書より)

「メタ認知」とは自分を取り巻く状況を一歩引いて客観的に見ることであり、歴史を知ることによるメタ認知を、同書では「歴史思考」と名付けている。歴史を学ぶことで近視眼的で短期的な見方から離れることができ、広く長期的な視野で物事を考えられるようになるのだ。

たとえば、キリスト教を生み出したイエス・キリストや儒教の開祖である孔子は歴史上の偉人として有名だろう。しかし彼らが評価されはじめたのは死後のことであり、生前は特に優れた人物として扱われていたわけではない。キリストの「新約聖書」や孔子の「論語」は彼ら自身が書いたものでさえないのだ。

「彼らの存在が時間をかけて周囲に波及し、結果として世界を変えた」(同書より)

ただそれだけのことなのだ。これは現代では偉人として扱われているキリストや孔子に限った話ではない。

「歴史的な視点から人生を見ると、そもそも平凡とか非凡とかいうことは『どうでもいい』ことなんです。

歴史にとってはある人が『存在すること』が決定的な意味を持つということです。行為、つまり『やったこと』よりも『いること』が大事なんです」(同書より)

障がい者福祉の向上に尽力し「奇跡の人」として有名なヘレン・ケラーも、彼女ひとりでは奇跡の人ではあり得なかった。ヘレンを教え導いたアン・サリヴァン先生はもちろん、ヘレンとサリヴァンを結びつけるまでには多くの人が関わっていたのである。盲人教育の先駆けであったハウ博士、ハウ博士に教育を受けヘレンより過去に読み書きを修得した視覚と聴覚に障がいのあったブリッジマン、ハウ博士が初代校長を務めたパーキンス盲学校、ヘレンの両親にパーキンス盲学校を紹介したグラハム・ベル、ベルがろうあ教育に関心を持つきっかけとなったろう者のベルの母など、枚挙にいとまがない。

「彼らはただ生きていただけです。しかし、そういう人々の『存在』が複雑な連鎖反応を生み、ヘレン・ケラーという奇跡につながったんです。

人間は誰でも生きているだけで周囲にものすごく影響を与えているんです。

大切なことは、この世に生を授かって生きることです。存在することです。何をするかではないのです」(同書より)

歴史はランダムやカオスではなく、物事には全て因果関係がある。しかし歴史の流れは複雑すぎて、人間が簡単に理解して説明できるものではない。今は良いように見えることがあとになって悪いほうに作用することもあるし、さらに長い期間で見ると、やはり良い結果をもたらすこともある。「人間万事塞翁が馬」ということわざもあるが、どこを切り取るかで評価はまったく変わってしまう。それならば、自分の一挙手一投足に一喜一憂するのはもったいないことだろう。

「自分の価値を信じて生きたほうが、毎日が楽しくなるのではないでしょうか」(同書より)

あなた自身も歴史の一部であり、今の時点だけを見てもその影響を計り知ることはできない。「何も成し遂げていない」「何も持っていない」と悩んでいるのなら、「歴史思考」を身につけることが人生を楽にする一助になるのではないだろうか。

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