全盲の美術鑑賞者・白鳥建二とアートを巡る旅 見えない人と見ることで見えてくる世界がある――
- 『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
- 川内 有緒
- 集英社インターナショナル
- 2,310円(税込)
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BOOKSTANDがお届けする「Yahoo!ニュース|本屋大賞 2022年ノンフィクション本大賞」ノミネート全6作の紹介。今回取り上げるのは、川内有緒(かわうち・ありお)著『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』です。
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ノンフィクション作家の川内有緒さんが、白鳥建二さんと出会ったのは2019年2月のこと。20年来の付き合いがある友人・マイティに、こう誘われたのがきっかけでした。
「ねえ、白鳥さんと作品を見るとほんとに楽しいよ! 今度一緒に行こうよ」(同書より)
年に何十回も美術館に通うという全盲の美術鑑賞者・白鳥さん。目が見えない状態で、アートをどうやって「見る」のでしょうか......? 著者は三菱一号館美術館で開催されていた「フィリップス・コレクション展」の会場で白鳥さんに初めて会い、その意味を知ります。
フランス人画家のピエール・ボナールによる絵画「犬を抱く女」の前に立つと、「じゃあ、なにが見えるか教えてください」とささやいた白鳥さん。著者とマイティは自分の目で見た描写を言葉で説明しましたが、その捉え方はふたりの間で異なり、また見れば見るほど絵の印象は変化していきました。
パブロ・ピカソの「闘牛」の前では、ふたりはうまく説明できず、話せば話すほどにカオス状態に。しかし、白鳥さんは「ふたりが混乱している様子が面白い」と喜んでいます。ひとつの作品でもその解釈や見方にはいろんなものがあり、その「余白」こそが楽しいと白鳥さんは考えているのです。
この日の鑑賞は著者にとっても新鮮な体験となりました。「最初はまったく目に入らなかったディテールに驚かされたりして、なんだか自分の目の解像度が上がったような感覚になった」(同書より)とのこと。たくさんのものが見えているはずの晴眼者が、盲目の白鳥さんと接することで見えてくること・気づくことがいろいろと出てくるとは......。
同じく美術館で白鳥さんをアテンドしたことがある水戸芸術館の女性コーディネーターは、同書でこんなふうに話しています。
「作品の見方というのはとてもパーソナルなもので、見えているひと同士でも必ずしも一致しないものです。障害の有無は関係なく、その認識のズレを対話することで埋めることができるのではと思いました」(同書より)
これこそ白鳥さんが大切にする「余白」なのかもしれません。
三菱一号館美術館での鑑賞以降も、全国に出かけ、絵画や仏像、現代美術などをともに見てまわる著者とマイティ、そして白鳥さん。ときには著者の友人や仲間も加わり、アートについてだけでなく、恋や愛のこと、夢のこと、障害のことなどさまざまな話を繰り広げながら時間を重ねていきます。
目の見えない白鳥さんと見る世界は、著者にとって新しい景色でした。そして、その景色は他の大勢の人たちにも開かれています。同書を通じて私たちもまた、これまで抱いていた偏見や思い込みから開放され、視界が広がるかもしれません。ぜひ皆さんもページを開いて、白鳥さんとアートを巡る旅に出かけてみてはいかがでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]