朝日新聞の元エース記者が内部事情を実名告発。新聞凋落の原因はどこにあるのか

朝日新聞政治部
『朝日新聞政治部』
鮫島 浩
講談社
1,980円(税込)
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 BOOKSTANDがお届けする「Yahoo!ニュース|本屋大賞 2022年ノンフィクション本大賞」ノミネート全6作の紹介。今回取り上げるのは、鮫島 浩(さめじま・ひろし)著『朝日新聞政治部』です。

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 著者の鮫島 浩氏は朝日新聞の元エース記者。入社以来、スクープを連発し出世街道をまい進していましたが、福島原発事故を巡る「吉田調書報道」の担当デスクだったことから、捏造の当事者として記者職を解任されます。その後、退職した著者が、登場する人物をすべて実名で記し、会社の内情を告発したのが『朝日新聞政治部』です。

 1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社した著者。地方支局に配属されたのち、1999年に花形部署ともいうべき本社政治部へ異動となります。そこで政治部長から聞かされたのは驚くべき訓示でした。

「君たちね、せっかく政治部に来たのだから、権力としっかり付き合いなさい」(同書より)

 新聞の役割は権力を監視することではないのか――。ここでは著者と同じく読者も疑問を抱くことでしょう。けれど現実は「新聞というムラ社会の中だけで評価される特ダネを積み重ねることが『優秀な新聞記者』への第一歩となる」(同書より)というのが実情。そのため、サツ回り(警察担当記者・警察取材)であれば、会食を重ね、ゴルフや麻雀、ときには風俗店に一緒に行ってヒミツを共有し、警察官にすり寄るものだといいます。

 また、番記者(政治家など担当)であれば、いわば運命共同体として担当政治家に食い込み、他社の番記者を出し抜いて一番になることが必要だそうです。こうした情報の取り方は古臭く閉鎖的であり、情報が瞬く間に拡散されるネット社会とは隔たりを感じざるを得ません。しかし、著者自身がそうした点に気づくのは、ずいぶんとあとのことでした。

 2014年に「吉田調書」問題が起こった際、著者は捏造にはあたらないと主張します。しかし、慰安婦報道取り消し、池上彰氏コラムの掲載拒否と次々に騒動が勃発し、世間から大バッシングされていた中で、当時の朝日新聞社社長が吉田調書報道は誤報であると認め、記事の取り消しを決定しました。そうして責任を転嫁された著者は、それまで政治部の威光で影響力を持っていたところから一瞬にして奈落の底へと転落したのです。

 自身のことを「傲慢だった」と振り返る著者。「自分の発言力や影響力が大きくなるにつれ、知らず知らずのうちに私たちの原点である『一人一人の読者と向き合うこと』から遠ざかり、朝日新聞という組織を守ること、さらには自分自身の社内での栄達を優先するようになっていたのではないか」(同書より)と記し、「新聞界のリーダーを気取ってきた朝日新聞もまた『傲慢罪に問われている』」(同書より)と手厳しく批判します。

 同書を読むと、なぜ新聞がこれほどオールドメディアになったのかに納得する人も多いことでしょう。この先、旧態依然のままさらに凋落していくのか、ここから新たなジャーナリズムを構築していけるのか、朝日新聞の今後が注目されるところです。

[文・鷺ノ宮やよい]

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