結婚4年目、妻に異変が起きた。摂食障害、アルコール依存症......夫婦の壮絶な20年を綴った体験記

妻はサバイバー
『妻はサバイバー』
永田 豊隆
朝日新聞出版
1,540円(税込)
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 BOOKSTANDがお届けする「Yahoo!ニュース|本屋大賞 2022年ノンフィクション本大賞」ノミネート全6作の紹介。今回取り上げるのは、永田豊隆(ながた・とよたか)著『妻はサバイバー』です。

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 自身や家族の病気のこと、とりわけ精神疾患となると、自分から積極的に話す人は少ないのではないでしょうか。世間にそうした空気がある中で、摂食障害やアルコール依存症などに陥った妻との20年近くにわたる体験を克明に綴って話題を呼んだのが『妻はサバイバー』です。

 著者は朝日新聞の記者である永田豊隆氏。30歳のときに4歳年下の女性と結婚し平穏な日々を過ごしていましたが、3年後の2002年、彼は妻の摂食障害に気づきます。食べ物を大量に胃に詰め込んではトイレですべて吐き出すという過食嘔吐から体調を壊し、彼女はその年、計4回も入退院を繰り返すこととなりました。さらに退院後は、著者を罵倒する、暴力をふるうなど、感情の爆発がどんどん激しくなっていきます。

 精神科を受診するよう説得を試みた著者ですが、妻は断固拒否。彼女にとって食べ吐きはつらいときに逃げ込んで安心できる秘密の部屋のようなものであり、それを自分から奪わないでほしいというのです。彼女はいつから、なぜそのような"部屋"が必要となったのでしょうか。そこには、両親から受けた肉体的、精神的虐待が深く関係していることを著者は知ることとなります。

 その後、比較的落ち着いていた時期もあったものの、2007年に妻が知人からひどいセクハラを受けたことで状況は一気に悪化。しかしここで初めて妻が「精神科か心療内科を受診する」と口にしたことで、精神医療を利用し始めることとなりました。

 それから10年余りにわたり、彼女は精神科病院の入退院を繰り返します。その間も、大量服薬で救急搬送される、アルコール依存症となり重篤な肝機能障害に陥る、自宅で飛び降り自殺をしようとするなど油断できない状況が続きました。そして2019年には、46歳の若さで認知症であることも判明。果たして夫婦に転機は訪れるのでしょうか――。

 妻自身が苦しみの中にいるとき、それを支え続ける夫である著者もまた、介護と仕事の両立で適応障害を患ったり、妻の過食で家計が困窮したりと大変な日々が続きました。それでも著者は「妻は間違いなく、私の問題意識を研ぎ澄ませてくれた。それまで見えなかったものを見せてくれた」(同書より)と記します。

 「精神障害は隠すべきもの」という空気が社会に満ちている限り、当事者は安心して助けを求められないと、著者は自身の体験を通して大きな気づきを得ました。著者の妻はけっして過食や酒に逃げたのではなく、一時的であっても過去の辛い体験から意識を遠のかせるための「鎮痛剤」が必要だったのです。

 トラウマを抱えた人に対する理解やケアが今後さらに進んでほしいというのも、著者が同書で訴えていることのひとつです。同書の最後で妻への感謝のひとことを綴っている著者。これからの夫婦の未来が、穏やかで安らぎに満ちたものであることを願わずにはいられません。

[文・鷺ノ宮やよい]

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