アナベル人形があなたの恐怖心を刺激する... 謎多き「現代怪異」の魅力から逃げられない!
- 『世界現代怪異事典』
- 樹, 朝里
- 笠間書院
- 2,200円(税込)
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現代科学をもってしても解明することのできない「怪異」。日本だけを見ても妖怪や幽霊などの怪異譚は数多く、世界に目を向ければその総数は計り知れない。怪異の内容も、信憑性の高いものから眉唾モノまでさまざま。まるで靄がかかったように得体が知れないからこそ、興味を惹かれるという人も多いのではないだろうか。
今回ピックアップした朝里 樹氏の『世界現代怪異事典』(笠間書院)は、20世紀以降に世界各地で語られた怪異・怪物を800種類以上掲載。写真データこそないものの、文字による圧倒的な情報量には驚かされるばかりだ。明確に実在が証明されていない存在から現象に至るまで網羅された一冊となっており、朝里氏は冒頭で以下のように説明している。
「本書をどのように使用していただくかは読者の自由です。出典を辿り、より詳しい情報を得るために使っても、創作に利用しても、ただ読んで楽しむだけでも構いません」(本書より)
まずはホラー映画『死霊館』シリーズのヒットにより、日本でも有名になったアメリカの怪異「アナベル人形」を見てみよう。アナベル・ヒギンズという少女の霊が取り憑き、1970年に怪異現象を起こしたとされる同人形。「いつの間にか位置が変わっている」というのは序の口で、夢に現れて首を絞めたり、人形に近づいただけで体に獣の爪痕のような傷がついたりするなどのいわくだらけだ。悪魔祓い後も勝手に動いてしまうためガラスケースに閉じこめられ、現在はウォーレン・オカルト博物館で展示されているそう。
アメリカに伝わる都市伝説では、「下水道の白いワニ」も有名。ニューヨークの下水に棲んでいるとされる怪物で、巨大な体と名前の通り「白い体表」が特徴。ペットのワニを飼いきれなくなった主人がトイレに流したことが元凶らしいが、大都会の足元に巨大なワニが蠢いているとは想像するだけでも恐ろしい。
「このワニは日の当たらない地下で育ったため鱗は白く、目は見えず、下水道のネズミや流されてきた薬品などを摂取したため、通常よりも巨大なのだという」(本書より)
同書では幽霊や妖怪・妖精の他にも、多くのページを割いて世界中に潜む未確認生物を紹介している。例えばスコットランド・ネス湖で目撃情報が相次ぐ「ネッシー」は、もはや誰もが知る未確認生物界のスーパースター。その正体をめぐっては、「首長竜の生き残り」説や「巨大な魚・ヘビ」説など議論が絶えない。一方1934年に外科医が撮影したネッシーの長い首を捉えた写真が、半世紀以上経って捏造と判明。目撃情報や証拠写真の真贋論争もいまなお続いているが、朝里氏は自身の思いを以下のように記した。
「しかしネッシーが今までたくさんの人の心を掴んできたことは確かだ。いつかその正体が判明するその時まで、人類のロマンとして在り続けることだろう」(本書より)
時として怪異は、子どもを持つ親にとって格好の題材になるのかもしれない。イギリスで語られる「ブギーマン」は、夜に子どもたちを脅かすという決まった形のない存在。寝かしつけの際に「しつけ」として名前を聞かせるそうだが、子どもにとって恐怖以外の何物でもないだろう。
「ボガード、バクベア、ボギーなど、同様の役割を持つお化けは多い。クローゼットやドアの向こうに潜んでいるとされ、子どもを攫うなどと語られる」(本書より)
国や土地ではなく、インターネット上で広がる怪異・都市伝説にも注目したい。名前の時点でどこか不気味な雰囲気を放つ怪人「スレンダーマン」は、目や鼻といった顔のパーツがなく異常に高い身長が特徴。スレンダーマンに追跡された人間は恐怖や妄想に囚われ、精神的な被害がおよぶという。
とはいえこの怪人は個人の創作による存在だと明確になっていて、2010年には作者本人が「スレンダーマン」を著作権登録。しかし姿の見えない怪人はネットの海で広がり続け、新たな特徴が次々と肉づけされていったようだ。
「インターネット上で語られる怪談の総称として使われる『クリーピーパスタ』の誕生のきっかけのひとつであり、その代表のひとつであるスレンダーマンは、現在も人々に親しまれ、多くの人々の間で語り継がれている」(本書より)
実在する・しないは別として、いつの時代も人々の好奇心を捉えてやまない怪異譚。いまもネット上には新たな目撃情報が溢れており、自分自身が目撃者になる可能性もゼロではない。自然に対する畏怖の念や未知なるものへの探求心を忘れなければ、怪異は意外なほど身近に存在しているのかも......。