物事の見方・考え方が豊かになる! 13歳のときに知りたかった「アート思考」

「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考
『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』
末永 幸歩
ダイヤモンド社
1,980円(税込)
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 大人に尋ねると、苦手な教科としてあがることが多いという「美術」。ある調査によると、小学生の「好きな教科」で「図工」が第3位にランクインしているにもかかわらず、中学校の「美術」になった途端、その人気が急落するという結果が出ているのだとか。

 つまり、「13歳前後」のタイミングで美術嫌いの生徒が急増している可能性が考えられます。そこで、13歳の分岐点に立ち返って「思考OS」をアップデートすることで、美術の本当の面白さを体験してほしい、自分なりのものの見方・考え方を見つけてほしいという思いを込めて書かれたのが、本書『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』です。

 本書の題材として登場するのは、クロード・モネ「睡蓮」をはじめ、パブロ・ピカソ「アヴィニョンの娘たち」、マルセル・デュシャン「泉」、アンディ・ウォーホル「ブリロ・ボックス」など、20世紀を代表するアーティストの作品たち。本書は1~6までのクラス(授業)に分けて、それぞれの作品に対して質問がなされています。読者は自身で考えてそれに回答し、著者の末永幸歩さんが解説をするという構成になっています。それを繰り返すことで、アート思考を深めたり、アート作品の見方を学んだりしていくことができるというスタイルです。

 たとえば、クラス1の「『すばらしい作品』ってどんなもの?」で取り上げられるのは、アンリ・マティスの「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」という絵画。

 まず末永さんは、「自分の感覚器官を駆使して作品と向き合うことは、『自分なりの答え』を取り戻すための第一歩」(本書より)ということで、「アウトプット鑑賞」という手法を紹介しています。これは作品を見て、気がついたことや感じたことを声に出したり、紙に書きだしたりしてアウトプットするというものです。こうすることで、なんとなくでしか見ていなかった絵をじっくりと自分の目で鑑賞できるようになるといいます。

 そのうえで、マティス夫人の肖像画を見てみると「果たしてこれが20世紀のアートを切り開いたアーティストによる代表作?」という疑問を抱く人も多いようです。色、形、塗り方のどれをとっても、そこまで褒められるものではないような......。事実、当時の評論家たちにも「もっとうまく描ける人はいくらでもいる」と批評されていたといいます。

 ところが、実はこれこそが重要なポイント。当時、20世紀が訪れるまでの長い間、「『すばらしい絵』とは『目に映るとおりに描かれた絵』であり、それこそがアートの『正解』だと考えられていた」(本書より)という歴史がありました。しかし20世紀に入り、カメラが登場したことで状況は一変。アートの世界にあった明確な答えやゴールは壊れてしまったのです。

 そこでマティスは、「『目に映るとおりに世界を描く』という目的からアートを解放した」(本書より)のだと末永さんは解説します。マティス夫人の肖像は「うまいからすばらしい作品」なのではなく、「『表現の花』を咲かせるまでの『探求の根』の独自性がすばらしい作品」というわけです。これこそまさに、アート思考の一つとして捉えられる事例ではないでしょうか。

 末永さんがインストラクター、私たち読者が生徒となって、「アート思考教室」の授業を受ける気分で読み進めることができる本書。興味を持った方はぜひ本書を開いて、美術の本当の面白さを体感してみてください。

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