もやもやレビュー

全ての母親へ届けたい、静かな怒りと狂気の物語『ナイトビッチ』

Nightbitch (Original Motion Picture Soundtrack)
『Nightbitch (Original Motion Picture Soundtrack)』
Nate Heller
Hollywood Records
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『魔法にかけられて』などで知られる女優のエイミー・アダムスが、キャリアを諦め母親業に専念した女性を演じる『ナイトビッチ』。レイチェル・ヨーダーの同名小説を原作とする本作は、孤独感と闘いながら必死で毎日の育児をこなす母親が「自分は犬なのでは?」と思うようになるという、少し変わったお話。

かつてアートの業界で活躍していた"母親"(エイミー・アダムス)。現在は郊外に住み、幼い息子の面倒を見ながら大変な母親業をこなしています。夫は隔週で外出する仕事をしているため、ほぼ息子と二人っきり。彼女は母親であることが嫌いなのではなく、キャリアを諦めたという現実と、その現実を周りが受け止めていることに強い違和感と納得のいかなさを抱えているのです。そんな彼女の体に、ある日異変が起こります。背中には毛が生え、歯は鋭くなり......「もしかして、自分は犬に変わりつつあるのでは?」という奇妙な感覚が芽生え始めます。

「犬に変身しているのかもしれない」と疑問をもつ母親というのは、なんともユニークなキャラクターではありますが、これまで数々の役をこなしてきたエイミーの見事な演技により、多くの母親が共感できキャラクターに仕上がっています。子育ての中で蓄積される孤独、社会的な不条理、そして自分を見失っていく怖さが、観客の胸に深く突き刺さります。本作は、母親だけでなく、育児に関わるすべての人に届けたい1本。とくに「子どもが言うことを聞かない」と悩んでいる男性にとっては、「問題は社会の構造そのものかもしれない」と気づくきっかけにもなるでしょう。

(文/トキエス)

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