【無観客! 誰も観ない映画祭 第51回】『グリズリー』

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『グリズリー』
監督/ウィリアム・ガードラー
脚本/ハーベイ・フラックスマン、デイビッド・シェルドン
出演/クリストファー・ジョージ、アンドリュー・プライン、リチャード・ジャッケル、ジョアン・マッコール、ジョー・ドージー、ビッキー・ジョンソンほか
原題『GRIZZLY』
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あけましておめでとうございます。今年も「誰も語らない映画」や「忘れ去られた映画」にお付き合いいただきます!
鈴木福主演の『ヒグマ!!』。福くん扮する闇バイト中の主人公がヒグマに襲われるという、結びつきそうもない2つの社会問題がドッキングした異色作です。当作品は昨年11月21日の公開を予定していたのですが、熊被害者への配慮から今年の1月23日に延期されました。冬眠しないアーバンベアが出る現状、時期尚早という意見が出るかもしれませんが......。
さて、『ジョーズ』(75年)によってジャンル確立した「動物パニック映画」ですが、熊部門の元祖にして代表作と言えば『グリズリー』。グリズリーとは北米大陸に生息するヒグマの英名で、和名はハイイログマです。
国立公園の森林で、2名の若い女性キャンパーがクマ(まだ手だけしか見せません)に襲われます。1人は顔面を6発殴られ、ガードした右腕も肩から根こそぎ吹っ飛ばされます。それを見た片割れは山小屋に逃げ込みますが、「バキーン!」と壁や屋根を簡単にブチ破ってクマの腕が! や、屋根(汗)......そいつは並みの熊とはサイズが違うようです。
国立公園の環境を守るパークレンジャーが、彼女らの無残な遺体を発見します。隊長のケリー(クリストファー・ジョージ)は直ちに行楽客を森から避難させ、公園内の熊を把握している動物学者でもあるスコット隊員(リチャード・ジャッケル)にフィールド調査を依頼します。両者はB級アクションやホラー映画などでよく見る顔で、R・ジャッケルはどちらも日米合作の『ガンマー第3号 宇宙大作戦』(68年)と『緯度0大作戦』(69年)に出演して日本の特撮マニアに知られています。
さて、隊長も公認の若い隊員カップルが森の中をパトロールしていると「あなたが回っている間、私は滝で水浴びしてるわ」と制服を脱ぎ始めます。しませんよ〜勤務中に。しかも人食い熊が森をウロついているのに。ここはアメリカの恐怖映画必須の「お約束」なのですね。滝を浴びている下着姿の女性隊員は巨大な熊の手で引っ掻かれ(まだ全身を見せず)、たちまち滝壺は真っ赤に染まっていくのでした。
隊長はベトナム戦争帰還兵の友人ドン(アンドリュー・プライン)を呼び、彼のヘリで上空から偵察を開始します。やがてスコット隊員が戻り、驚くべき調査報告をします。木に残した爪跡と足跡から、犯人は立ち上がると5メートルにも達するグリズリーだというのです。アラスカに生息する最大種のコディアックヒグマでも3メートル台で、そんな巨大熊は存在していません。さらにスコットは、絶滅した種が山奥に生き残っていたと推論しますが、ここ少し捕捉しておきます。
西部開拓以前の北米にグリズリーは10万頭いましたが、白人による狩猟により1920年代の合衆国では約800頭まで激減しました。保護政策により個体数が回復した現在もアラスカ州・合衆国北西部・カナダ西部に分布は限られ、絶滅危惧種に指定されています。そしてグリズリーは大昔に絶滅したホラアナグマの遺伝子を持った個体がゲノム解析により確認され(かつて交配があった証拠)、他にもショートフェイスベアという体重が1トンに迫る世界最大級の熊の化石が、映画の舞台になったジョージア州で出土されているのです。そのどちらかと異種交配して生まれたグリズリーの末裔が先祖返りを起こし、巨大グリズリーとなって現出したというのが筆者の憶測です。
人の味を覚えたグリズリーは、麓なら安全だろうと油断していたキャンプを襲撃し女性が犠牲になります(まだ手だけ)。こうなると「早く駆除しろ」という森の管理責任者と、「まず山を封鎖しろ」という隊長が真っ向から対立します。
憤る管理責任者によって集められた腕自慢の素人ハンターらは、ヒョコヒョコ出てきた無害な子熊を木に縛り付け、母熊が出てきたところをズドンという囮作戦をとります。だが哀れ子熊は彼らの目の前でグリズリーに食われてしまいます。これを聞いたスコットは「共食いの習性を持つのはオスだけだ」と特定、「研究のため麻酔銃で生け捕りにする」と言い出し、「無理だ、やめとけ」とドンからダメ出しされます。ドンはスコットと顔を合わせれば、常に反論するのです。
そしてようやく全身を現したグリズリーは、先ほど恋人を殺された見張り中の隊員を監視塔ごと倒して殺害。さらに人の生活圏へと入り込み、庭で遊んでいた男児の左足を食いちぎり(このシーン、かなりショッキング)、我が子を助けにきた母親をベアハッグして頭からかじります。片足と母親を同時に失った男の子がストレッチャーで運ばれる様子を呆然と見送る公園管理責任者は、ようやく公園閉鎖に従うのでした。
一方スコットは、鹿の死骸を馬で引き摺っておびき出すという、文字通り馬鹿な作戦を実行。現れたグリズリーはパンチ一撃で馬の首を吹っ飛ばし、落馬したスコットにも一撃を加え、後で食べようと地面に埋めてキープします。隊長とドンが駆けつけた時には、スコットは絶命していました。ベトナム戦争のトラウマからハエも殺せなくなっていたドンですが、「ナイスガイなのに、俺は奴をからかってばかりいた」と無言の再会を悔やみ、隊長と共に弔い合戦に出撃します。
隊長とドンはグリズリーをヘリで散々追い回し疲弊させ、足が止まったところを銃で仕留めようとします。しかしグリズリーも逆襲に転じ、着陸したヘリをオモチャでも扱うように怪力でコマのようにクルクル回します。遠心力で外へ放り出されたドンにグリズリーが襲いかかり、その背中に隊長は銃撃しますが効き目ありません。強烈なベアハッグでドンの背骨を砕いたグリズリーは、次に隊長をロックオン。自分めがけて走ってくるグリズリーに、隊長は秘密兵器のロケット砲で木っ端微塵にするのでした。
もうお気づきかもしれませんが、本作品は『ジョーズ』を模倣しています。獲物を追う一人称の目線。最初の犠牲者は女性で、のち子供も襲われる。観光地の閉鎖に関して警備側と運営側が対立。素人ハンターの集結。退治トリオの構成も、『ジョーズ』のブロディ警察署長(ロイ・シャイダー)に対してパークレンジャー隊長。クイント船長(ロバート・ショウ)に対してヘリ操縦士のドン。海洋生物学者フーパー(リチャード・ドレイファス)に対しては動物学者のスコット。劇中でドンが語るグリズリーの群れにより全滅した先住民族の話も、日本の潜水艦に沈められた巡洋艦インディアナポリス号の乗組員が次々と鮫に食われていったというクイントの述懐そのままです。そしてラストの大爆殺。『グリズリー』が「森のジョーズ」と称される所以なのです。
ただし、そこには単なる便乗モノではない製作背景がありました。最初の事故は1900年、イエローストーン公園で子グマをからかっていた観光客が母グマに肺をえぐり出され死亡しました。以降も北米ではグリズリーによる国立公園内での獣害が社会問題化していたのです。その映画化構想を練っていたのが、『エクソシスト』(73年)のパチモノ『デアボリカ』(74年)を製作したエドワード・L・モントロら数人の映画プロデューサー。タッチの差で『ジョーズ』(75年)に先を越されましたが、その大ヒットにより確信を深めたモントロは、機械仕掛けのサメに対抗して「本物に勝るものはない」と生きている熊を起用しました。選ばれたのはワシントン州にある映画用動物の調教施設オリンピック・ゲーム・ファーム(現在は動物園)にいた4歳のオス。調教は強い電流を通したワイヤーをグリズリーに触らせショックの条件反射を覚え込ませ、俳優との間にそれを張って撮影しました。グリズリーと絡む俳優32名には、日本円で総額約29億円の生命保険が懸けられました。
低予算で製作した『グリズリー』は世界中で大ヒットし、メジャー傘下ではないインディペンデント映画としては最も成功した作品の1つに数えられています。日本でも1976年の洋画興行成績第8位を記録し、和名のハイイログマより英名グリズリーの方が日本人に覚えられたのです。
監督のウィリアム・ガードナーは、1978年1月21日にフィリピンで移動中のヘリコプターが高圧送電線に触れ爆発、30歳の若さで亡くなりました。それから5年後の1983年、続編『グリズリー2 リベンジ』が製作され、当時まだ無名のジョージ・クルーニーとチャーリー・シーンが端役で出ていましたが、複雑な諸事情でお蔵入り。2020年のハリウッド・リール・インディペンデント映画祭にて、ようやく日の目を見たのでした。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

