もやもやレビュー

トイレ清掃員の幸せとは『PERFECT DAYS』

PERFECT DAYS
『PERFECT DAYS』
ヴィム・ヴェンダース,ヴィム・ヴェンダース,高崎卓馬,役所広司,柄本時生,中野有紗,アオイヤマダ,麻生祐未,石川さゆり,田中泯,三浦友和
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日本の名優、役所広司が主演を務め、『パリ、テキサス』などのヴェム・ヴェンダース監督がメガホンをとった『PERFECT DAYS』。第96回アカデミー賞では国際長編映画賞にノミネート、第76回カンヌ国際映画祭では役所広司が最優秀男優賞を受賞するなど、国内外問わず多くの人から称賛の声が寄せられた本作は、東京でトイレの清掃員として働く男性の日常を描いています。

東京の公衆トイレの清掃を生業としている平山。彼は夜明け前に起床し、苗木に水をやり、家の前の自販機でコーヒーを買ってから車で出勤します。東京都内のトイレをいくつか周り、徹底的にキレイにしていく平山。後輩からは「どうせ汚くなるのに」と言われるものの、彼は、シンプルな日課を守り仕事を徹底的にやり、毎日同じ日を繰り返しています。一見、退屈そうに見える平山の人生ですが、昼休憩中に神社の木をカメラでとったり、古本屋で100円で気になる本を購入したり、駅地下にある居酒屋で簡単な食事を済ませるなど、彼の中の小さな喜びも丁寧に映し出されています。そして、平山のところにある時、姪っ子がやってきます。

平山はかなり無口な男で、ほとんど濃密な会話というものは本作にはありません。しかし、彼が感じている平和な世界は、古本、カセットテープ、木々で満たされているのです。ちなみに本作はもともと、東京の公衆トイレの知名度をあげるプロジェクトだったそう。こうして始まったプロジェクトに、ヴェンダース監督が長編映画にすることを提案したことで本作が誕生したのだか。監督は見事このコンセプトを引き継ぎ、東京のトイレの清潔さや素晴らしさも十分に描き出されています。スマホやパソコンなどデジタルとは無縁な平山の昔ながらの生活に、誰もが羨ましい気持ちを持つ、なんとも不思議な一本でした。

(文/トキエス)

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