もやもやレビュー

B級映画で作るクトゥルフ神話?『ザ・パラサイト 寄生する獣』

ザ・パラサイト 寄生する獣(字幕版)
『ザ・パラサイト 寄生する獣(字幕版)』
ジェレミア・キップ,ナナ・ゴウベア,トム・サイズモア,エリック・ロバーツ
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 まともに視聴すると時間軸は飛びまくり、オチも中途半端で仕込んだと思しき伏線は回収されずと見る拷問とさして変わりない出来栄えだがB級映画で作るクトゥルフ神話と思えば耐え難い92分の時間がSAN値を削られるプレイと思えなくもない。もっとも途中リタイアしない時点でだいぶ自分の正気は失われていたのではないかと思うような酷さだが。

 米国東海岸で頭蓋骨を内部から突き破られた変死事件が続発し、政府の依頼で調査に乗り出した記憶喪失の科学者ルイザは未知の寄生生物による仕業と疑い、その謎に迫る――という内容はいいのだが、モキュメンタリ―風にルイザが自身を撮影し資料や捜査の結果を述べていたかと思えば今度は謎の若いホームレスの男が「僕は預言者、そしてお前は使徒だ」とか新興宗教じみたことを言い出し大学生たちの顔に謎の物体をぶっかけたりして視点が落ち着かない。不穏な雰囲気を演出しようとしているのか単に仕事が雑なのか場面がコロコロと切り替わるので冗長で退屈に感じるのみ。その後、若いホームレスについての資料が出てきて海難事故に遭って母親が行方不明だとか政府や軍が男の存在を抹消したとか言い始める。何で一介の科学者が国家機関の抹消した真実にアクセスできるのかと。

 一方、若いホームレスの男は人々を水辺に連れ出し寄生生物に襲わせゾンビ化させ続ける。またまた視点が変わって精神状態がかなりおかしくなったルイザは頭の中に響く声に従って車を走らせホームレスの男のもとに。実はルイザが男の母親で自身の記憶が政府によって消されていたと知る。ここから人間ドラマ的な掛け合いが始まるのかと思いきやルイザは沖から黒い触手の塊を召喚。どういう理屈かどちらか一方が故郷に帰れるという設定となり黒い触手と対峙したところでエンドロールへ。

 おおまかに内容を説明する文章をつむぎながら何を言っているのか自分でも分からない。しかし、物語は書いた通りに進んでいるのだから大変困る。延々と視聴者を置いてけぼりにする本作だがエンドロールの途中で流れるNGシーンやメイキングらしいシーンは面白かったと言えなくもない。海辺でスタッフが「頭部の破裂を撮り直します」と述べているシーンで笑えるのだから笑えない意味不明のシーンがひたすらに続くと察してほしい。
 B級映画はあらすじも演出もすべて単純明快でないと酷いものになると改めて教えてくれる作品だった。

(文/畑中雄也)

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