子育ての苦悩と狂気『ハングリー・ハーツ』
- 『ハングリー・ハーツ(字幕版)』
- サヴェリオ・コスタンツォ,サヴェリオ・コスタンツォ,アダム・ドライヴァー,アルバ・ロルヴァケル,ロバータ・マクスウェル
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イタリア製作の2016年のサスペンスドラマ『ハングリー・ハーツ』。ハリウッド映画で大活躍するアダム・ドライバーと、イタリア人女優アルバ・ロルバケルが夫婦役を演じた本作は、2人がベネチア国際映画祭で最優秀男優賞と最優秀女優賞を受賞したことでも話題になりました。そんな本作、子育て方針が違うカップルに起こる惨劇を描いています。
舞台はニューヨーク。物語は中国料理店のトイレに閉じ込められるという思いがけないトラブルから始まります。この偶然の出会いをきっかけに、アダム演じるジュードとアルバ演じるミナは恋に落ち、幸せなカップルに。しかし、妊娠を機にミナの異常なまでの健康志向と不安が表面化していきます。彼女は栄養摂取を拒み、医者を信頼しないとまで言い出し、さらには「医者は毒を与える存在」と断言するまでに。やがて、ミナは生まれてきた赤ちゃんに自分の育てた野菜しか与えようとしないなど、彼女の独自の子育て方針はどんどんエスカレートしていきます。
ジュードは最初こそ彼女を尊重しようと努力しますが、赤ちゃんの栄養失調の危険性を感じ始め、次第に葛藤と不安が募っていきます。子どもに対する極端なまでの配慮と、周囲への不信感で徐々に心を病んでいくミナ。彼女はかつての穏やかで笑顔が素敵な女性から一変し、他人には一切笑顔を見せず、家族さえも拒絶するように。ジュードはそんな彼女を懸命に支えようとしますが、次第に彼の限界も近づき、夫婦の関係は修復不能なところまで追い詰められていきます。
難しそうな役どころですが主演2人の圧倒的な力強い演技は、この映画に重みを与えています。本作の結末は「滑稽だ」という声も上がるなど賛否両論ではありましたが、幸せなカップルがどんどんと変貌していく様は本作の見どころです。
(文/トキエス)