もやもやレビュー

自主映画のほうが万人受けする時代『侍タイムスリッパー』

侍タイムスリッパー
『侍タイムスリッパー』
安田淳一,安田淳一,安田淳一,山口馬木也,冨家ノリマサ,沙倉ゆうの,峰 蘭太郎,庄野﨑謙,紅 萬子
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日本アカデミー賞の賞を総なめにした『侍タイムスリッパー』。たまにはまともな映画にも賞を与える日本アカデミー賞。見直したぞ。

低予算時代劇映画と聞いてあまり期待せず観たが、面白かった!会津藩の侍(主人公の高坂新左衛門)が長州藩の侍(のちのスター俳優・風見恭一郎)と決闘しているときに、雷に打たれ、現代にタイムスリップしてしまうという展開なのだが、これ自体はよくあるアイデアだと思う。しかし、ここからがこの映画の真骨頂ともいうべきもので、ちゃんと脚本を、コメディとして、破綻なく、成立させているところがすごい。たいだいこの手のものは、アイデアだけで脚本が破綻する。

相手方の長州藩の侍もタイムスリップしていて、一足早く現代に馴染んで、スター俳優となっており、長編時代劇映画の相手方に高坂新左衛門を選ぶ。そこでふたりは、あのときのふたりだということを認識する。過去の江戸時代の記憶が蘇る。そして映画内で、真剣を使って決闘ということになり...。その先は自分の目で確かめてほしい。

関西の自主映画ということで役者は無名だが、それが返ってよかったのではないだろうか。変な業界のしがらみもなく、演技派の役者を揃えることができた。ところどころ、大阪制作の朝ドラ感のあるギャグもあって、微笑ましく観た。これは万人受けするなと思った。

こういうものが、大手映画制作会社には作れて、自主映画から出てくるのは、昨今騒がれているたぶん芸能界の構造上の問題もあるのだろう。今まで、メリットだったものが、デメリットになっている。そういう過渡期に僕らは生きている。

(文/神田桂一)

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