【無観客! 誰も観ない映画祭 第38回】『襲い狂う呪い』
- 『プレミアムプライス版 襲い狂う呪い blu-ray《数量限定版》』
- ニック・アダムス,H・P・ラヴクラフト,ダニエル・ホラー,ジェリー・ソウル,ジェームズ・H・ニコルソン,サミュエル・Z・アーコフ,ニック・アダムス,ボリス・カーロフ,スーザン・ファーマー,フリーダ・ジャクソン,パトリック・マギー
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『襲い狂う呪い』
1965年・英米・78分
監督/ダニエル・ホラー
脚本/ジェリー・ソール
原作/H・P・ラブクラフト『宇宙からの色』
出演/ニック・アダムス、ボリス・カーロフ、スーザン・ファーマーほか
原題『DIE MONSTER DIE!』
TV邦題『悪霊の棲む館』
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2024年のラストを締め括る作品は、思い切りマニアックに行きます。この『襲い狂う呪い』は怪獣マニアとして見過ごせない作品なのですが、『新映画宝庫Vol.1 モンスターパニック 超空想生物大百科』(大洋図書)以外の出版物で解説されたのを見た事がない、言わば忘れられた作品です。VHSビデオからDVD時代へ移行する2000年前後、全国に中古ビデオ店が乱立し、ゴミ同然となったビデオを1本500円や1980円、また1本100円のワゴンセールで一斉に大量処分していました。だがそれらは知られざる珍作・怪作を探求する劇場未公開映画マニアにとって、DVD化の需要もなく絶滅する運命にあったお宝ビデオの宝庫だったのです。それを察知した筆者は車かスクーターで関東一円を走り回り、SF・ホラーに関しては内容の優劣に関係なく全タイトル、ほかレアと目利きしたビデオを狂ったように買い集めました。ある日、店の棚から引き抜いた『襲い狂う呪い』のビデオジャケットを一目見た瞬間、「ボリス・カーロフ ニック・アダムス」という2名のビッグネームに心を揺さぶられました。それは、この共演に見えざる神の采配を感じたからです。
ボリス・カーロフは、ユニバーサル映画『フランケンシュタイン』(1931年)において、世界で最初にフランケンシュタインの怪物を演じた怪奇俳優のレジェンドです。この頃はロジャー・コーマン監督のエドガー・アラン・ポー作品『忍者と悪女』と『古城の亡霊』(共に1963年)に出演した後で、実はそれらの美術担当だったダニエル・ホラーが『襲い狂う呪い』で監督デビューしたのです。そのため本作のカメラワークや雰囲気は、コーマンの影響を大きく受けていました。
そして東宝怪獣ファンにはお馴染みのニック・アダムス。ワーナー・ブラザースで同期のジェームズ・ディーン主演『理由なき反抗』(1955年)で俳優デビューを果たし、順調にキャリアを積み重ねていた1965年、『襲い狂う呪い』を製作したベネディクト・プロは、同年に東宝と合作する『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』にニックを送り込んだのです。太平洋戦争終戦間際、ドイツから広島に持ち込まれたフランケンシュタイン博士の開発した人造心臓が原爆で巨人化する。ニックの役はその巨人を研究する科学者で、奇しくも国をまたいでフランケンシュタインに関わる運命に「またフランケンシュタインか」(笑)と思った事でしょう。その後ニックはゴジラ映画『怪獣大戦争』(1965年)で続けて共演した水野久美に、本気で求婚していたのは関係者の間では有名な話です。だが、この頃のニックは母国での仕事がB級映画ばかり(まさに『襲い狂う呪い』も)になったのを悩んでいたようで、過失か自殺かは不明ですが1968年2月7日、オーバードーズにより36歳の若さで変死しました。
アメリカ人のスティーブ(ニック・アダムス)は、アメリカの大学で恋仲になったイギリス人スーザンが里帰りしているアーカムを訪れます。だがスーザンの実家・ウイットリー家の名を出した途端にタクシーは乗車拒否、住民もみんな無視します。仕方なく駅から徒歩で人里離れた屋敷まで辿り着くと、やたら目力の強い怖い顔の親父が出てきます。当主のナウム・ウイットリー(ボリス・カーロフ)です。病床に伏す夫人はなぜかベールで顔を隠し、メイドは2週間前に「恐ろしい事が起きる」と言ったきり行方不明。そして、どこからともなく聞こえてくる「ウアァァァ〜!」という、楳図かずおの漫画に出てきそうな恐ろしい叫び声。さらに体調悪そうにしていた執事が倒れ、そのまま死んでしまいます。翌日スティーブは庭で、ベールから見え隠れするただれた顔の怪女に刃物で襲われ、なんとか撃退します。どうやら森で野生化(笑)しているメイドのようです。
秘密の鍵は内部から青緑色の光を放つ温室にあると睨んだスティーブは、娘でも立ち入りを禁止されているスーザンと一緒に忍び込みます。温室内には美しい花が咲き乱れ、規格外の大きさの果実も成っています。すると奥の部屋から例の恐ろしい叫び声が響き、2人が中に入ると青緑色の光を放つストーブみたいな装置があります。そして檻の中には奇形ダコみたいな巨大生物、小さな2つの目だけあるぬりかべみたいな奴(ちょっとカワイイ)、あとは形容し難い何だか分からない化け物数匹が蠢いているではないですか。それにしても、せっかく作ったのに数秒しか映さず、しかもはっきり見せない。昔の怪物映画の悪いところです。実は装置に詰められた光る石の正体は数十年前アーカムに落下した隕石を砕いたもので、発する光は荒野を緑化させ、動物のパワーを増強させる効力があったのです。だがそれは一時的なもので、やがて怪物のように変貌したのち滅びてしまうのでした。檻の中にいた化け物は隕石によって突然変異したモンスターだったのですが、元は何の動物だったのでしょうか......。
その後は枝が動いて相手を絡め捕る怪奇植物や、顔が白濁してゴツゴツした蝋みたいになった夫人が髪を振り乱して襲い掛かってきます(めっちゃ怖い!)。そしてラストは、ノッペラボウのような顔と両手が青緑色に輝く(おそらく服の下も)発光怪人がスティーブ達に襲い掛かります。それは当主の変わり果てた姿でした......ていうかこの一帯、政府レベルで封鎖しないと!
原作者のH・P・ラヴクラフトは、1900年代前半に活躍したアメリカの怪奇幻想作家です。先達エドガー・アラン・ポーに影響を受けた筆致は独特の世界観を創造し、現在でも世界中に信者が存在します。代表作は『クトゥルフ神話』シリーズで、ほか多くの作品が映画化されています。『襲い狂う呪い』は4度映画化された『宇宙からの色』(1927年、原題『カラー・アウト・オブ・スペース』)の最初の作品で、公開タイトルは『DIE MONSTER DIE!』。「DIE」を2度使って「死ね! 怪物」を強調しているところが素敵です。長年レアビデオでしたが、2017年に晴れてDVDが発売されました。2回目の映画化は『ザ・カース』(1987年、アメリカ。日本版ビデオ『デッド・ウォーター』)。3度目は『宇宙の彼方より』(2010年、ドイツ)、そして4度目はニコラス・ケイジ出演の『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』(2019年、アメリカ・ポルトガル・マレーシア)で、それぞれの脚色違いを観比べてみるのも一興かもしれません。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。
【おまけ】
幻のVHSジャケット!(筆者私物)