思い出も定点観測してみたい。『ちょっと思い出しただけ』
- 『ちょっと思い出しただけ』
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2022年公開、『くれなずめ』の松井大悟監督のオリジナル脚本を、池松壮亮・伊藤沙莉が主演し映画化。
ロックバンド・クリープパイプの尾崎世界観が自身のオールタイムベストに挙げている映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』から着想して作曲した「ナイトオンザプラネット」に松井監督が触発され、自身初の完全オリジナルラブストーリーとして執筆しました。また、クリープパイプも主題歌を手掛け、劇中バンドとして出演もしています。
7月26日は佐伯照夫(池松壮亮)の誕生日。2021年の7月26日から物語は始まります。1年ずつ同じ日を遡り、別れてしまった男女(池松壮亮・伊藤沙莉)の終わりから始まりの6年間が描かれます。
2019年、足のケガでダンサーの道を諦めた照夫とタクシードライバーの葉(伊藤沙莉)は既に一緒にいません。2018年にケガをしてリハビリに励む照夫と彼を支えたいと願う葉は、気持ちのすれ違いから言い合いになって喧嘩別れをしてしまっていました。
そんな二人でしたが、その前の2017年には、休館日の水族館に忍び込んでドキドキするデートをしていたし、2016年にはバイト先に押しかけて告白した葉の気持ちに照夫も応えてやっと恋が実る幸せな時を過ごしていたし、2015年は葉の友人の舞台を観に行った打ち上げで二人は出会って意気投合していました。
こうして文字で追ってみてもそうですが、本編を観て、遡ってみることがなにより新鮮でした。
すでに別れてしまうことが分かっていても、キラキラ輝いていた時期の二人がいたりお互いに好感を持つ出会い方をしていたり。二人の関係の終着点が分かっているから余計きゅんと切なく胸を打たれました。
毎年変わらずに一日だけを思い出すって、相手との思い出や相手との記憶が自分にとっては忘れられない何物にも代えがたいものだからなんですよね。きっと誰にでもそういう存在や思い出したい大切な記憶ってあると思います。こんなこともあったなくらいには思い出すことはあっても、いつも同じ日を同じタイミングで思い返すことは意外とやってなかったのでぜひともしてみようと思った次第です。
また余談ですが、本作を観て、コロナ禍のみんながマスクをつけていた時期も懐かしい光景として思い出されました。ほんとに余談でした、悪しからず。
作品自体は、尾崎世界観がキーパンソンにもなっていたり、ストーリーを遡ってみているのでまた見返したくなる一作です。
(文/森山梓)