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今ある幸せを噛み締めよう!『花束みたいな恋をした』

花束みたいな恋をした
『花束みたいな恋をした』
土井裕泰,有賀高俊,土井智生,坂元裕二,菅田将暉,有村架純,清原果耶,細田佳央太,オダギリジョー
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 2021年公開の大ヒット作。菅田将暉さん、有村架純さんが主演した、坂元裕二さん脚本、土井裕康さん監督作品の本作を、今更ながら鑑賞しました。

 東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った山音麦(菅田将暉)と八谷絹(有村架純)。好きな音楽や映画が一緒で、あっという間に恋に落ちた二人は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始めます。本作は二人の幸せな始まりから関係が変化する5年間が描かれます。

 その関係が変わり始めたのは、麦が就職をしたことからでした。イラストレーターを志していた麦でしたが、親からの仕送りを絶たれ、それだけでは生活が成り立たず、二人の生活を維持するためにと営業職に就職します。麦の仕事は忙しく、絹と過ごす時間や会話も減り、二人の共通の趣味の漫画や映画、ゲームの新作にも興味を失っていきます。

 就職前は近所にお気に入りのパン屋を見つけたり、拾った猫にバロンと名前をつけて飼い始めたりと何気ない毎日から幸せがあふれ出ていたし、絹の濡れた髪をドライヤーで丁寧に乾かしてあげたり一緒に一冊の漫画を読んで泣いたり二人のラブラブぶり(死語でしょうか)がとても印象的だっただけに、その関係性の冷えっぷりが痛いほど伝わります。

 共通点が多くどんなに強く惹かれ合っても、環境が変わることで、すれ違いが生まれ距離が生じてしまう経験はよくある話だと思います。本作をみて、懐かしさを感じてみたり、昔を思い出して感傷に浸ってみたり、ストーリーを自分なりに考察してみたり、色々な愉しみ方ができる作品でした。

 時とともに変化していくのは恋愛だけでなく、例えば子育てもそうだし、親との時間もそう。その時々の幸せの絶頂期があることが改めて可視化されていることで、その一瞬一瞬や幸せだと感じられる時間を嚙み締めたり、愛おしく過ごしたいと思わずにはいられませんでした。

(文/森山梓)

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