もやもやレビュー

VHS時代の気になる一本『悪魔の晩餐』を再発見

悪魔の晩餐 [DVD]
『悪魔の晩餐 [DVD]』
ジョン・コンシダイン,ジェニファー・ビリングスリー,ジュディス・マッコネル,タニ・ガスリー,フレデリカ・マイヤーズ,チキ・ダ・ローザ,ヴィク・ディアズ,テリー・ベッカー
有限会社フォワード
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 学生時代から数年間、レンタルビデオ店でアルバイトをしていた。オーナーが採算度外視気味で映画とドラマとアニメはなんでも入荷する人だったので、絶対に低予算かつ不出来であろう作品も膨大で(主にホラーかSF)、棚に並ぶジャケットの背中を眺めているだけで楽しい気分になれる店だった。初期はその手の映画を中心に扱っていた雑誌『映画秘宝』が創刊されたのも確かその頃で、世の中にはあまりに多くの妙な映画があるということに気付かされたものである。

 が、当時の筆者は一般的な映画好きだったので、自分が借りて見るのは名の知れた名作が中心。いずれは低予算で不出来な作品も浴びるように見たいものだと思いながら後回しにしていたのだが、そうした作品群に手を伸ばす前に就職が決まって店を離れることとなり、その後レンタルビジネスの斜陽化と地域再開発の波に飲まれ閉店、膨大な在庫は閉店セールでマニアなお客さんたちの手に渡り散り散りになってしまった。
 代わりに有料配信サービスが中心となった現在、あの頃優先的に見ていたような名作は比較的簡単に鑑賞できる一方、後回しにしていたタイプの作品群は客寄せに役立たないのかそうそう見当たらない。『映画秘宝』のバックナンバーは資料として手元に残りながらも、肝心の作品そのものにはアクセスしづらくなってしまった。

 とはいえ同じ配信サービスでも、日本語字幕がなくてもいいやと割り切って海外のサービスを覗くと、こうした作品群に巡り会うことも不可能ではなかったりする。おすすめは「plex」という配信サービス。無料、かつ合法なので安心だ(無料なので広告が入るのは我慢)。

 で、同サービスで見つけたのが、『THE THIRSTY DEAD』という作品。ジャケットには顔面の半分が美女、半分が老婆に描かれた、あしゅら男爵みたいな人物のアップの下に、吊り下げられている人、土台に貼り付けられている人、それを囲む人々が禍々しい筆致で描かれており、怪しさ満点。絶対に元バイト先にたくさんあったタイプの映画であることは間違いなさそう。こりゃもう見るしかないぜ!

 物語は、フィリピン在住の女性が次々誘拐される事件が発生、警察は手掛かりを全くつかめないでいるが、実は彼女たちは、人の生き血を吸うことで永遠の命を手にいれる秘術を持つカルト教団に連れ去られていたのだ! というもの。ちなみに物語もロケ地も実際にフィリピンだが、セリフは全編英語で出演者も大半が欧米人のアメリカ映画と思われる。

 製作されたのは1974年でまだまだ本格的ホラー映画ブーム到来以前、どちらかといえば60年代のB級怪奇映画の名残を感じさせる素朴な出来で、そうそう、俺はこういうのを浴びるように見たかったんだ、と思いながら見ていたのだが、見終わる頃にはこういうのはたまにでいいな、と思うようになっていた。ちなみに映画データベース「IMDb」では10点満点中3.2点という驚くべき低スコアを叩き出しており、その辺りからも察していただければと思う。

 が、必ずしもスルーして良い一本かというとそうとも限らない。本作はVHS時代に日本で『悪魔の晩餐』の邦題でリリースされているだけでなく、3年ほど前にも同タイトルでDVDが発売されているのである。さらにさらに、本作の映像をそのまま利用したWindows用アドベンチャーゲーム『ROUGH KUTS: The Thirsty Dead』も発売中だ(PC用ゲームプラットフォーム「STEAM」で120円)。全然知らない、しかも見たところでこれといって......といった気分になってしまう作品であっても、実は評価されていたり人気があったりすることもある。淘汰される作品はそれ相応のものなんだなと見捨ててしまうのではなく、再発見際発掘するのも必要なのかも知れないな、などと思ったりした次第である。

(文/田中元)

田中元画像.jpeg文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
https://about.me/gen.tanaka

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