もやもやレビュー

90分でパリを横断、心揺さぶられます!『パリタクシー』

(字幕版)パリタクシー
『(字幕版)パリタクシー』
クリスチャン・カリオン,リーヌ・ルノー,ダニー・ブーン
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あっという間に涼しくなりましたね。秋の夜長にこんな良作はいかがでしょうか。
パリのタクシー運転手のシャルルは人生最大の危機を迎えていました。金なし、休みなし、免停寸前。このままでは最愛の家族にもあわせる顔がないという危機的状況にあった彼のもとに、92歳のマダムをパリの反対側まで送るという依頼が舞い込みます。

マダムの名は、マドレーヌ・ケレーヌ。これからパリを横断した先の介護施設に入居するとのことで、その道中、思い出の場所に寄り道してほしいと依頼されます。
そして、寄り道をする度に、マドレーヌの意外な過去が次々に明らかになっていきます。
最初は赤の他人のおばあちゃんの話なんかまったく興味ないと思っていたシャルルも、次第に心を動かされ、彼女に心を開いていきます。

マドレーヌが生まれたヴァンセンヌという街では、初恋の話を赤裸々に語ります。16歳の時に、マットというアメリカの軍人と恋に落ちたこと。マットの帰国後に妊娠に気づき、マチューという可愛い息子を出産するも、マットは帰国後別の女性と結婚し子供までいたこと。

次にパルマンティエ通り辺りで、舞台の衣装の仕事をしていた母にマチューを預けて、レイという男性と付き合い始め、やがて結婚したこと。幸せは束の間、レイはマチューを私生児呼ばわりし、自分との子供を望み、それを断ったマドレーヌに暴力を振るうようになったこと。
ある日マチューにまで手を挙げたことがきっかけとなり、マドレーヌはとうとうレイに対し、睡眠薬を飲ませ眠らせた後、レイの下半身をバーナーで焼くという暴挙にでたこと。

レイは死なず、裁判にかけられることになったこと。裁判所をみながら話を続けます。
殺す気はなかったことや当時のひどい状況をどんなに話しても、その時代女性の立場は著しく弱かったために、マドレーヌは禁錮25年のもの刑となったこと。
その後、模範囚でいたために半分の刑期で出所できたものの、成長した息子との念願の再会はほんのわずかしか叶わず、マチューは報道カメラマンとなり、外国で銃撃に遭い、死んでしまったこと。

こうした壮絶な人生の話を、マドレーヌは時に楽しく時に悲しく、シャルルに打ち明け続けます。また不愛想で短気と思われがちなシャルルの実はロマンチストな一面がわかる奥さんとのエピソードを挟みつつ、マドレーヌとシャルルの関係性にも変化がみられていきます。

彼女の壮絶な人生や、それを感じさせない気品とユーモアをもつ人としての深み、そんなマドレーヌに心を開いたことでシャルルとマドレーヌが互いにリスペクトし合う様子や、シャルル自身の生き方も感化されていく様など、パリの素敵な街並みと共に心揺さぶられること必至です!

ちなみに、マドレーヌを演じたシャンソン歌手のリーヌ・ルノーさんは御年94歳だとか。そんな彼女の作中での、「ひとつの怒りでひとつの老い、ひとつの笑顔でひとつ若返る。若くありたいなら何をすべきか」という一言が個人的にはとても刺さりました。余談でした、悪しからず。

(文/森山梓)

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