【無観客! 誰も観ない映画祭 第36回】ロジャー・コーマン追悼企画その5 『アタック・オブ・ザ・50フィート・チアリーダー』
- 『アタック・オブ・ザ・50フィート・チアリーダー [DVD]』
- ジェナ・シムス,オリヴィア・アレクサンダー,ライアン・メリマン,ショーン・ヤング,ジョン・ランディス,トリート・ウィリアムズ,ケヴィン・オニール
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〜追悼 「B級映画の帝王」ロジャー・コーマン〜
今年5月9日、「B級映画の帝王」「低予算映画の巨匠」といった異名を恣(ほしいまま)にしたハリウッドの名プロデューサー、ロジャー・コーマンが死去しました(享年98歳)。『アッシャー家の惨劇』(60年)などのエドガー・アラン・ポー原作作品を数多く手掛け、無名時代のジャック・ニコルソンが出演していた『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(60年)、デヴィッド・キャラダイン主演でブレイク直前のシルベスター・スタローンも出ていた『デス・レース2000年』(75年)など、SF・ホラー・アクションを中心に300本を超える作品をプロデュース、うち50本を自ら監督しました。彼に見い出された、というより安い賃金でコキ使われた(笑)若手スタッフ・俳優の中には、ジェームズ・キャメロン、マーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラ、スティーヴン・スピルバーグ、ジャック・ニコルソン、ピーター・フォンダ、ロバート・デニーロなど錚々たる顔ぶれが牙を磨いていたのです。このコラムではその偉大な業績に敬意を表し、数回に渡って作品を紹介していこうと思います。
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『アタック・オブ・ザ・50フィート・チアリーダー』
2012年・アメリカ・90分
監督/ケビン・オニール
脚本/マイク・マクレーン
出演/ジェナ・シムズ、オリヴィア・アレクサンダー、ショーン・ヤング、トリート・ウィリアムズ、ジョン・ランディス、ロジャー・コーマンほか
原題『Attack of the 50 Foot Cheerleader』
今回は「老いてますます盛んなロジャー・コーマン」をテーマに語ります。この世には「巨大女」という、オタッキーで変態趣味的なSF分野が存在します。オタクでも変態でもないけど庵野秀明作品は好きだという皆さん、『シン・ウルトラマン』に出てきた「巨大・長澤まさみ」は衝撃的だったでしょう。スカートでの片足を上げた状態は、現実であれば下から丸見えのはずなのですが、庵野監督は地ベタにいる男達の本音(笑)は敢えてオミットしました。それでも巻き起こる「女性蔑視だ!」というネット上での狭量な批判は置いといて、あれは庵野監督が愛してやまない『ウルトラマン』(66年)の「巨大フジ隊員」に対するオマージュなのです。第33話で科特隊のフジアキコ隊員(桜井浩子)は、メフィラス星人に巨大化させられビル街に出現しました。警官がフジ隊員に発砲すると、ムラマツ隊長が「撃たないでください。怪獣じゃないんですから!」と制止しますが、今では怪獣図鑑にちゃんと「巨大フジ隊員」と載っています(笑)。
他にもこんなのがありました。永井豪のエッチ漫画『あばしり一家』(69~73年)に登場した法印大子は、身長3メートルの小6女子。『進撃の巨人』の「女型(めがた)の巨人」アニ・レオンハートは、全裸でエレンと総合格闘技で戦うので「う~ん」と思いましたが、後で巨人には性器がない事を知り少し落ち着きました(笑)。バリエーションとして、カノジョが身長15センチに縮んでしまう内田春菊原作『南くんの恋人』の男女逆転バージョン『南くんが恋人⁉』も、カレシの目線からすると巨大JKです。
さて、そんな日本より遥かに「巨大女愛」が勝る本場・アメリカの代表作を紹介していこうと思います。そのすべての原点が『妖怪巨大女』(58年。原題『アタック・オブ・50フィート・ウーマン』)。監督は、ストップモーションアニメの名作『シンドバット七回目の航海』(58年)などを手掛けた、洋物特撮映画の大御所ネイサン・ジュラン。宇宙人と遭遇した影響で身長15メートルに巨大化した若妻が、浮気夫を捜してズンズンと進撃する怪作です。なぜかコレがアメリカ人の琴線に触れ、翌59年に『キャンディロックの妖怪巨大花嫁さん』(原題『30フィート・ブライド・オブ・キャンディロック』、90年代になると『妖怪巨大女』を『ブレードランナー』(82年)のダリル・ハンナでリメイクした『愛しのジャイアント・ウーマン』(93年。原題は『妖怪巨大女』と同じ)が、さらに知る人ぞ知るC級映画の職人監督フレッド・オーレン・レイによる『妖怪巨大グラビアクイーンの襲撃』(95年。原題『アタック・オブ・60フィート・センターフォールズ』)が製作されます。「センターフォールズ」とは、雑誌の見開きグラビアの事です。
こんな感じで映画やドラマを問わず、小説や漫画にも多くの「巨大女」が登場してきたわけですが、これを胎内回帰がどうのこうのと、何かとアカデミックな理由をコジつけ「俺って頭いいでしょ」と物知りを気取る評論家や文化人がいますが......違います。まったく見当違いです。服がピチピチになり、ブラが弾けてパンティは破れ、やがてはスッポンポンになる女性を描きたいだけです。少なくともロジャー・コーマンは。この「巨大女」が彼の人生で遣り残した事だったのかどうかは知りませんが、齢86にして喰いついたのです。先ほどアメリカ作品の原題をいちいち記しましたが、それらに共通する「アタック・オブ・~フィート」が基本形だからです。このフォーマットに従ってタイトルは『アタック・オブ・ザ・50フィート・チアリーダー』。ならば日本版DVDの邦題は『妖怪巨大チアリーダー』にして欲しかったです、心底。
話は単純明快。生物学専攻の女子大生キャシー(ジェナ・シムズ)は、オシャレに関心なく肌は荒れ放題の地味なリケジョ。だが母校のチアリーダー・キャプテンだった母親(『ブレードランナー』レーチェル役のショーン・ヤング)の期待に応えようとチアの入部テストを受けますが、運動音痴と冴えないルックスにより現キャプテンのブリトニーから不合格にされてしまいます。そこでキャシーは、母親を喜ばせようとズルします。後にカレシとなる同級生と開発中の「美貌と身体能力を高める薬」を自分に注射してしまうのです。するとキャシーは見る見るモデル並みのルックスに変貌し、男子学生にはモテモテ。さらに超人的なジャンプ力を得てチアにも入部します。ところが副作用で日々身長が伸びていくキャシーは、やがて15メートルの巨人になってしまったのです。服が破れて全裸になったキャシーは、キャンパスに2体浮かんでいるチアの巨大バルーンに着せていた衣装を奪って着用します。
そんなキャシーに驚いた友人が「アンタとのセックスは、カレシには洞窟探検ね」と声を掛けます。また、キャシーを見世物にしようと企む製薬会社のグレイ博士(『ゾンビコップ』(88年)などB級映画で活躍のトリート・ウィリアムズ)は、彼女の股間に向かって「アソコは巨大な空洞だ。ヨーデルがよく響く。ヨーレリホ〜♪」とバカ丸出しです。この一連の台詞、先述の『愛しのジャイアント・ウーマン』にあった「君と愛し合うには、ウェットスーツと懐中電灯が必要だ」のパロディかもしれませんが、どれもお下劣ですね。
さて、キャシーの美貌と人気に嫉妬を覚えたブリトニー・キャプテンは、例の薬で自分も巨大化! 巨大チア・バルーンのもう1体からコスチュームを奪い、アメフトの試合が行われているスタジアムに乱入します。場内はパニックとなり、「巨大キャシーVS巨大ブリトニー」の巨人キャットファイトが展開。アメフトそっちのけで、その模様が全米に配信されます。そして2人ともトップレスとなり、大股開いてキックの応酬。観客も視聴者も大喜びで興奮はマックスに!
徹底した下品なお色気には、巨大・長澤まさみを批判した良識派の方々が観たら眉をひそめるでしょうが、ロジャー・コーマン本人が下品な言葉遣いを律する学長役(笑)で出演しているのも皮肉が効いていました。ちなみに、キャシーが投薬する際に成分を浴びてしまった蜘蛛が巨大化していて学生を殺しまくります。ロジャー・コーマン若かりし頃の1950年代に、散々作った巨大生物映画の郷愁誘うセルフパロディーでした。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。