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【無観客! 誰も観ない映画祭】第32回『双頭の殺人鬼』

双頭の殺人鬼 THE MANSTER [DVD]
『双頭の殺人鬼 THE MANSTER [DVD]』
ケネス・G.クレイン
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『双頭の殺人鬼』
1959年・アメリカ・72分
監督/ジョージ・P・ブレイクストン、ケネス・G・クレイン
脚本/ウォルト・シェルドン
出演/ピーター・ダインリー、中村哲、ジェーン・ヒルトン、テリー・ジマーン、ノーマン・ヴァン・ハウリー、ジェリー伊藤、武智豊子ほか
原題『THE MANSTER Half Man-Half Monster』『THE SPLIT』

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 頭が2つある人間が登場する映画と言えば、アホの体に連続殺人鬼の頭を付けた『怪奇!双頭人間』(71年)、医学者に黒人死刑囚の頭を付けた『Mr.オセロマン 2つの頭を持つ男』(72年)などがあり、今回はそのルーツとも言える作品を紹介します。

 日米合作の本作は、ディープな特撮マニアの間ではカルト作品の扱いを受けています。というのも、まず双頭人間を演じた主演のピーター・ダインリーは、人形特撮ドラマ『サンダーバード』(65~66年)でトレイシー一家の家長ジェフ・トレイシーの声を当て、しかもアノ有名な「ファイブ、フォー、スリー、ツー、ワン! サンダーバード・ア・ゴー!」というオープニングのカウントダウンも担当しているのです。そして双頭人間を作ったマッドサイエンティスト役の中村哲、事件を追う刑事役ジェリー伊藤の両名は『モスラ』(61年)の悪人コンビで、特に中村は円谷特撮映画の常連として知られるカナダ移民の国際俳優です。また音楽は『月光仮面』(58~59年)や『仮面の忍者赤影』(67~68年)などの名主題歌・名BGMを作曲した小川寛興大先生なのです。

 話は日本を舞台に、アメリカ人が思い描く変な日本描写を入れつつ進行していきます。そして「ええっ?」と驚く結末。ネタバレありなので、GW中に鑑賞する方(いないでしょうが)はラストにご注意ください。

 夜の温泉宿に雪男みたいな獣人が現れ、露天風呂に浸かっていた女性客ら数人を殺害します。その温泉街を見下ろす山腹に建つ山小屋では、鈴木博士(中村哲)と金髪助手のタラが何やら怪しい研究をしています。どうやらこの研究所から抜け出したケンジという男が、町で人を殺したようです。博士は山小屋から通じる洞窟を通り、秘密の実験室へ向かいます。そこには牢獄があり、中には左目が頬の位置にある女が囚われていて「アヒャヒャヒャ」と奇声を発しています。そこへ戻って来た獣人を、博士は「すまん、ケンジ」と撃ち殺し、煮えたぎる源泉の中に落として処分します。なんと彼らは、自ら志願して実験台になった博士の妻エミコと実弟のケンジでした。この哀れな妻役の武智豊子は、往年の喜劇王・榎本健一にならって「女エノケン」と呼ばれた人気コメディアンで、戦後は老婆女優として様々な映画やドラマに出演しています。

 ちょうどそこへ、米紙の海外特派員ラリー(ピーター・ダインリー)が取材に訪れます。ラリー記者が健康そうで年齢が35歳と聞いた博士、目がキラリと光り悪い顔になります。眠り薬を盛った酒でラリーを眠らせ、その間に謎の薬物を注射して新しい実験台にします。目覚めたラリーを博士は芸者遊びに接待し、女給の膝枕やキスでメロメロにさせます。女給を抱かせた後、さらに博士は助手のタラまで使います。連日の性接待で骨抜きにされたラリーは、アメリカから毎日かかってくる愛妻リンダの電話も無視し、堪りかねた支局長の忠告にも聞く耳持ちません。すっかり舞い上がっているラリーが自室にタラを連れ込もうとドアを開けた途端、「ハロー、ダーリン」と中には妻リンダが! 修羅場にラリーは「ニューヨークへ帰れ! 僕らは終わったんだ!」。ラリーは博士に薬を打たれて、性衝動が抑制できない獣と化していたのです。

 その夜、ラリーの手の甲が毛むくじゃらになり、右肩には大きなコブができます。異変を感じたラリーは夜の町をさまよい、すがる様に寺へと入っていきます。ラリーはお経を唱えるお坊さんに「歌っているのか?」(笑)。哀れお坊さんは、英語が通じなくてムキーッとなったラリーに殺されてしまうのでした。

 一方、人が変わってしまったラリーは心の病を抱えていると思った支局長は、東京で開業する精神科医ジェンセン博士を彼の部屋に連れて来ます。だがラリーは「放っておいてくれ!」と診察を拒否します。その時ラリーのコブには、目が誕生していました。その夜、赤坂にあるジェンセン診療所にラリーが現れます。するとジェンセン博士の目の前で、ラリーの右肩からモリモリとコブが盛り上がり人の頭になります! それは知性のかけらもない卑しい顔つきで、後ろから助監督が手を突っ込んで動かしているのでしょうか、口がパクパクしています。双頭の怪物と化したラリーは、ジェンセン博士を絞殺してしまいます。

 その頃研究所では、体を重ねるうちにラリーを愛してしまったタラを博士が言いくるめています。「われわれ科学者には恋愛は許されない。君には欲しい物は何でも買ってやった。次は世間体が欲しいのか? それが望みなら今すぐ結婚してやる」。何を言っているのでしょうか、このオヤジは。するとタラは、博士に短刀を黙って渡します。なぜかアメリカ人女性によるハラキリ要求です。神妙な顔になった博士は牢内の妻に「一緒にアメリカの大学で学び、キュリー夫妻を夢見たけどダメだったね」と語りかけます。夫婦にはそんな時代があったのですね......。博士は妻を撃ち殺し、短刀を腹に当てます。

 そこへ双頭人間ラリーが登場し、奪った短刀で博士を刺殺します。ラリーはタラをさらって山へ逃げ、そこへアイダ警部(ジェリー伊藤)ら警官隊、支局長とリンダが到着します。すると迫る警官隊の目前で、右肩の頭がメリメリッとラリーから離れ、もう1体の人間(獣人)に分離しました! 何が何だかわかりません。両者は取っ組み合いを始め、怪力でラリーを圧倒している獣人にタラが飛び掛かります。愛は強しですが、激怒した獣人はタラを抱え上げグツグツ煮立つ源泉に投げ込みます。それを覗き込んでいる獣人も、ラリーにドンッと背中を押されて落ちるのでした(熱湯風呂か!)。

 ブレイクストン監督は、1930年代から1940年代に俳優として活躍し、戦後は従軍カメラマンとして日本に駐留します。その後は映画業界に進み、よほど日本が気に入ったのか、1951年に『東京ファイル212』で監督デビュー。翌年には『ゲイシャ・ガール』(52年)を手掛け、どちらも中村哲と日本の温泉街が登場し、『双頭の殺人鬼』に通じる作品でした。

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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