もやもやレビュー

成功者の衝撃的な転落人生『TAR/ター』

TAR/ター(字幕版)
『TAR/ター(字幕版)』
ケイト・ブランシェット,ノエミ・メルラン,ニーナ・ホス,ソフィー・カウアー,マーク・ストロング,ジュリアン・グローヴァー,アラン・コーデュナー,トッド・フィールド,トッド・フィールド,トッド・フィールド,アレクサンドラ・ミルチャン,スコット・ランバート
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 第95回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞など6部門でノミネートされた映画『TAR/ター』。ケイト・ブランシェット演じる女性指揮者の転落を描いた作品で、あまりにリアルに感じられることから「実話なのではないか」と思う人が多くいた作品です。

 世界最高峰のドイツのオーケストラにて、女性として初の主席指揮者となったリディア。多忙な日々を送る中、名声を必死に守り抜くリディアに、かつて指導していた若手指揮者の訃報が伝えられます。さらにリディアは"ある疑惑"をかけられ、どんどんと追い詰められていき......。

 本作は、ニューヨーカーのジャーナリストがリディアの輝かしい功績のリストを読み上げていくシーンから始まります。彼女がキャリアの頂点にいることを強調させるこのシーンはとても印象的で、最初から迫力がたっぷり。その後、リディアの日常を通して権力の悪用や、多くの文化的問題も描かれた本作。もちろん、現代には欠かせないSNSの存在も彼女を脅かします。

 前述した冒頭シーンのほかにも、作品の世界観に没頭できる工夫が多くなされた本作は、現実世界から着想を得たのではないのかと考えずにはいられないのです。皆さんは、コーエン兄弟が手がけた『ファーゴ』(1996)が、まったくのフィクションにも関わらず冒頭に「実話に基づいている」という文章を使ったことを知っていますか? これは新たな手法として話題となったのですが、その時に受けた衝撃と似たような感覚が本作にはあります。

 ちなみに『TAR/ター』は完全なるフィクション。公式では「サイコスリラー」と説明されている本作ですが、スリラーというよりは「誰かの伝記映画」と錯覚させてくれる面白い一本です。

(文/トキエス)

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