"支配欲"が引き起こした悲劇『フォックスキャッチャー』
- 『フォックスキャッチャー(字幕版)』
- スティーブ・カレル,チャニング・テイタム,マーク・ラファロ,E・マックス・フライ,ダン・ファターマン,ベネット・ミラー
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『40歳の童貞男』やテレビシリーズ「ジ・オフィス」など、コメディ要素が強い俳優としても知られるスティーヴ・カレル。そんな彼が、コメディ要素を一切封印し、特殊メイクをしてシリアスな役柄を好演した映画『フォックスキャッチャー』。本作でスティーヴはゴールデングローブ賞主演男優賞、アカデミー賞主演男優賞に初ノミネートされました。そんな本作、実際に起きた悲しい事件を題材にしています。
デュポン財閥の御曹司であるジョン・デュポン。彼はオリンピックで金メダルを目指すレスリングチーム「フォックスキャッチャー」を設立し、ロサンゼルスオリンピックで金メダルを獲得したレスリング選手マーク・シュルツをスカウト。マークは兄デイブのもとを離れ、チームを連れてデュポンのもとで暮らすようになりますが、やがて感情の起伏が激しいデュポンに振り回されてしまいます。ある時、デュポンはマークを見放し、兄デイブをスカウト。父親代わりのようにマークを育ててきたデイブは、マークとまた近くで働けることから、このオファーを承諾。「フォックスキャッチャー」のコーチを担うことに。
デュポンと、マーク、そしてデイブの3人の関係をメインに描いた本作は、それぞれが持つ「感情」に注目して鑑賞すると、より深い意味を理解できるようになります。デュポンは親から「レスリングは下品なスポーツだ」と言われ、さらに自分も選手として出場するも、八百長でしか勝つことができない。「お金がある」ということ以外に、何も自信を持つことができていないデュポンは、コーチとして優秀なデイブに嫉妬のような感情を抱いていきます。さらにマークに対しても支配的。ある時には練習場で銃をぶっ放すなど、支配欲が強いキャラクターでもあります。マークも情緒不安定で、ジョンに勧められたコカインに落ちていき、デイブの救いの手も振り払ってしまう。そんなマークはいつもデイブの陰にいるような存在で、それをコンプレックスに感じています。
本作は劇的なドラマが展開されているわけではないものの、曇り空、秋の色彩、哀愁を帯びたピアノの演奏などが、本作の「負のオーラ」を上手に彩っています。そして、3人の負の感情の連鎖によって、悲劇的な事件へと展開していく。最後には悲しい気持ちでいっぱいになります。スティーヴ・カレルほか、チャニング・テイタムやマーク・ラファロなど豪華俳優陣の演技にも注目。
(文/トキエス)