もやもやレビュー

【無観客! 誰も観ない映画祭】第27回 『ネクロマンティック』

ネクロマンティック【Blu-ray】(廉価版)
『ネクロマンティック【Blu-ray】(廉価版)』
ダクタリ・ロレンツ,ユルグ・ブットゲライト,マンフレッド・O・イェリンスキー,ダクタリ・ロレンツ,ウーエ・ボーラ,ダクタリ・ロレンツ,ベアトリス・M,ハラルド・ランド,スーシャ・スコルテッド,ヘンケ・S
アルバトロス
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HMV&BOOKS

『ネクロマンティック』
1987年・ドイツ・75分
監督・脚本/ユルグ・ブットゲライト
出演/ダクタリ・ロレンツ、ベアトリス・Mほか
原題『NAKROMANTIK』

***

 名物映画プロデューサーの叶井俊太郎さんが余命宣告しました。大ヒットした『アメリ』(01年)から『いかレスラー』(04年)などのバカ映画監督・河崎実作品まで、フツーの人とは異なる視点でディープな映画ファンを楽しませてくれた叶井さん。一般大衆が観るメジャー映画嫌いの筆者も、彼が配給した作品は何度も観返すほど大好きでした。叶井ファンとしては追悼特集をやりたくないので、ご存命のうちに「世の中、こんな映画もあるんだよ」といった当コラムらしい作品紹介でエールを送ろうと思います。

 映画評論家で映画プロデューサーの江戸木純が映画会社の宣伝部時代、日本未公開のヘンテコな映画を海外で買い付けては、『死霊の盆踊り』(65年)や『ムトゥ踊るマハラジャ』(95年)といったセンス抜群の邦題を付けて売りまくっていました。当時の彼はカンヌ映画祭の会場で、以前から気になっていた1987年のドイツ映画『ネクロマンティック』を知らないかと尋ねて回っていました。「ネクロマンティック」とはビデオ邦題ではなく、ネクロフィリア(死体愛好家)とロマンティックを合わせた造語の原題です。「死姦」という過激なテーマから本国ドイツ以下各国で上映禁止となり、ドイツの裁判所からはネガとフィルムの破棄を命じられたいわく付きの作品です。すると怪しいインディーズの営業が、「コレですね」とスーツケースの中からゴソゴソと当作品のビデオを取り出したのです。

 本懐遂げて凱旋帰国した江戸木の売り込み先は、以前『人肉饅頭』(93年)を買ってくれた叶井さんが在籍するアルバトロスでした。しかし天下のアルバトロスでさえ「このままでは出せない」と頭を抱える超インモラルな内容から、1991年に製作していた続編を加えて約50分もディレクターズカットされた『ネクロマンティック 特別編』として1995年にビデオ発売される運びになりました。キャッチコピーは「屍体とし・た・い」(上手い!)。アルバトロスは販促グッズとして死体写真を何枚も封入したレンタルビデオ袋を全国レンタル店に配布すると、作品は大ヒット。「ぜひウチのも!」とドイツの他社から異常極まる猟奇映画のサンプルテープがアルバトロスにどしどし送り込まれてきたそうです(笑)。その後2作品とも単独の完全版ソフトがアルバトロスによって順次商品化されていきました(現在廃版)。粗筋を紹介しておきますが、ウサギと猫を飼っている方は読まない方がよいかと思います。

ネクロマンティック特別編.jpg『ネオロマンティック[特別編]VHSジャケット(廃盤/筆者私物)

 冴えない陰キャな主人公ロベルト(ダクタリ・ロレンツ)は、交通事故や殺人事件などの死体を片付ける業者です。実はロベルト、死体から目玉や内臓などを戦利品としてこっそり持ち帰りコレクションしているネクロフィリアでした。部屋の壁には有名なシリアルキラーや死体写真がビッシリ貼られ、棚には手首・舌・眼球などのホルマリン漬けが並んでいます。なお目玉は、監督自ら屠畜場に行き医大生と偽って安く譲り受けた豚の眼球だそうです。

 ロベルトは幼少期に見たウサギの解体シーン(本物映像)を回想してノスタルジーに浸ります。棒で頭を殴られて気絶したウサギが、首を切られて血抜きされ(ピクピクしてます)、逆さに吊るされ皮を剥がされていきます。今夜の仕事後は、ビールを飲みながら遺体解剖ビデオの鑑賞です。ロベルトはそんな充実したオタクライフの上、同好の同棲相手ベティ(ベアトリス・M)がいて、夜な夜な人体パーツを大人の玩具に性行為を楽しんでいるのです。ロベルトが死体を丸々1体ゲットして来た日には、体液に塗れたベトベト死体を挟んでの3Pで絶頂に達しました。

 だが「臭くて堪らん」と仲間達にいくら注意されても制服を洗わないロベルトは、協調性に欠けると会社をクビになります。その夜「これから死体はどうするのよ!」とベティにキレられ、2人は言い争いになります。ベティにはロベルトより彼が運んで来る死体が重要なのです。ロベルトはベティの機嫌をとろうとペットショップで猫を買って帰りますが、ベッドの上には「お友達(死体)は餞別代わりにもらっていきます。さよなら」と置手紙が。涙を流してガックリするロベルトは、猫を袋に入れ渾身の力を込めて壁や床に叩き付けまくります(ここは本物ではないと思いますが)。ちなみに2人の口喧嘩、実は本物です。撮影中に言い争いするなど両俳優は馬が合わず、その仲の悪さに監督は手を焼いていました。ここで監督は、撮影していたベアトリスの剣幕フィルムを無駄にせず、ベティが失業したロベルトを罵るシーンにそのまま使ったのでした。

 さて、パートナーに逃げられたロベルトは墓地で売春婦を絞め殺して死姦。墓守ジイサンの顔面をスコップで横殴りすると、顔の鼻から上半分がパカーンと吹っ飛び断面から舌がピロピロ~(笑)。帰宅したロベルトはパンツを脱ぎ、自分の腹をナイフでグサグサ刺し始めます。ベッド上で悶絶するロベルトの股間はビンビンで、ウサギの解体シーンを脳裏に思い浮かべながら射精したと同時に命も果てるのでした。

 続編『ネクロマンティック2』は、ロベルトを崇拝するミニスカ女がヒロインです。女はロベルトの墓を暴き死体を自宅に持ち帰り、死んでも立ったままのペニスにまたがり死姦したのち解体。そんな彼女にはポルノ映画の吹き替え声優をする恋人がいましたが、やがて変態がバレてしまいます。女は騎乗位で挿入したまま彼の首をナタで斬り落とし、ベッドの下に用意していたロベルトの頭にすげ替え、再び腰を振るのでした。

 こんな作品に主演したおかげでドイツで俳優業を続けられなくなったダクタリ・ロレンツは、このビデオ発売時に偶然日本でNOVAの英会話講師をしていました。それを知った叶井さん、「日本でビデオ化されたらNOVAにもいられなくなる」と尻込みするロレンツを5万円のギャラで説き伏せ、緊急来日記者会見と偽ってプレスリリースしたのです。結局NOVAをクビになり(泣)ドイツへ帰国したロレンツは、叶井さんに国際電話で3万円もする幼虫モスラのラジコンを送ってくれとおねだり。それはブットゲライトが特殊効果を担当した『キラーコンドーム』(96年)でコンドーム怪獣に使われ、叶井さんも天国の円谷英二監督もオッたまげたのでした。この作品もアルバトロスからビデオ化されています。

 ベルリンで生まれ育ったユルグ・ブットゲライトは、この作品で全世界のホラーマニアに名を轟かせました。だがドイツ当局はブットゲライトが不謹慎な映画を撮らないか監視を続け、上映会では警察の立ち入りもありました。表現の自由を失ったブットゲライトは日和ることなく、『シュラム 死の快楽』(93年)を最後にたった4作でキャリアを終えたのです。

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム