もやもやレビュー

星の記憶とともに生きる愛の物語『スーパーノヴァ』

スーパーノヴァ(2020)(字幕版)
『スーパーノヴァ(2020)(字幕版)』
コリン・ファース,スタンリー・トゥッチ,ピッパ・ヘイウッド,ピーター・マックイーン,ニナ・マーリン,ハリー・マックイーン,ハリー・マックイーン
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死がふたりを分つときまで。と、きっと誓いあっただろう、20年もの歳月を共にしてきた往年のゲイカップルの最終章である。

舞台はイギリスの湖水地方。コリン・ファースがピアニストのサムを。彼の親友であり恋人、そしてパートナーである作家のタスカーをスタンリー・トゥッチがダブル主演で演じる。美しく、エモーショナルな映像美と展開に、息をつくのを忘れるほど心をつかまれてしまった。見終わった後にも、余韻がやわらかく広がり続けている。これを書いている今もなお。

冒頭から、悪夢がふたりを離れ離れにしようとしている。それはタスカーの認知症、少しずつ消えていく記憶。髭が生え、¬さながらテディベアのような風貌のサムに対し、体型を維持し洋服を着こなす、スタイリッシュなタスカー。自分を見失っていくこと、そんな自分を愛するひとに見せることが、どれだけ酷なことか、このふたりの配役の妙にも表れているような気がした。

サムの演奏会をきっかけにキャンピングカーで旅に出るものの、そこには喪失の予感が悲しいほどにあふれている。いくらでも泣かせようとできる設定ではあるが、あくまでも演出は控えめ。だからこそ二人の演技力がすさまじく際立ってくる。

そして、愛するひとを愛する方法はひとつではないということを教えてくれる。「星はいつか死ぬ。まぶしい光を放ちながら。粉々になって吹き飛ぶ。そのかけらは長い年月も宇宙を旅し、その果てに人間の身体にたどりつく。つまり星はわたしたち。」

(文/峰典子)

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