もやもやレビュー

人生との向き合い方を坂本龍一に教わる『Ryuichi Sakamoto: CODA』

Ryuichi Sakamoto:CODA Blu-ray スタンダードエディション
『Ryuichi Sakamoto:CODA Blu-ray スタンダードエディション』
坂本龍一,スティーヴン・ノムラ・シブル
KADOKAWA / 角川書店
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これから先、どんな時間を過ごしていきたいか。感染症という言葉を日常的に耳にするようになってから、そんなことをぼんやりと考えはじめた人もいるかもしれない。それまで何事もなく進んでいた人生がぱたりと終わってしまう可能性を突きつけられたのも大きい。

感染症とは関係なしに、いつあっち側へ行ってしまうかわからない、と思いながら生きてきた(生きている)人からしてみれば、そんな考えはもっと前から浮かんでいたかもしれない。たとえば坂本龍一(以下、教授)は、2014年に癌と診断され、病とともに晩年を過ごした。彼が音楽家として、はたまたアクティビストとしてこれまで歩んできた道が静かに写る『Ryuichi Sakamoto: CODA』(2017)を見ていると、ただ、今をひたむきに生きたいという思いが湧いてくる。活動を休止しているときでさえ映画音楽を引き受けたり、バッハの曲を毎日ピアノで練習したり、病を抱えながらも楽しそうに、かつ真剣に音楽に取り組む教授の姿は、限りある時間のなかで、生きる喜びを噛み締めているようにも見えた。

ニューヨークにある自宅でのシーンには、ちょっぴり違う教授の一面が写る。なにせカメラワークを担当したのは、息子の空音央(そら・ねお)さん。カメラを通して自身の息子と会話をする表情はいつもの二倍ほどゆるんでいて、息子への愛情や誇らしさが全身からじわじわと溢れ出ていたような気がした。

教授のキャリアは壮大で、これまで成し遂げてきたことをあれこれ詰め込めば大忙しなドキュメンタリーになる可能性も十分あったはずだ。それをここまで静かに、焦らず、じっくりと描けたのはスティーブン・ノムラ・シブル監督の才能でもあるだろう。流れる音楽がどれもすーっと心に沁みた。

(文/鈴木未来)

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