たくさんの気づきがあります!『日日是好日』
- 『日日是好日』
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樹木希林さんが亡くなった2018年に公開され、興行収入が10億円を超えるヒット作となった本作。
大学生の典子(黒木華)は、母に勧められて、同い年のいとこの美智子(多部未華子)と共にお茶を習い始めます。
最初のうちは全く乗り気でなく、茶道の所作も理由も意味も分からず、先生(樹木希林)に言われるがまま何とかついていくだけでした。例えば、お茶を飲み干すときにはズズっと音をたて、お茶室に入る時は左足から、畳一帖を六歩で歩いて、七歩目で次の畳へなど...。そのわけも分からない所作の数々に戸惑います。先生は、「意味なんて分からなくていいの。お茶はまず『形』から。先に『形』を作っておいて、その入れ物に後から『心』が入るものなのよ」と言います。
それから24年間、結婚を機に美智子が辞めてしまっても、典子は茶道を習い続けます。その間に、就職への挫折があったり、結婚を考えた恋人の裏切りがあったり、大切な人との別れがあったり...。誰もが経験するだろう人生の挫折や悲しい出来事を目の前にしたとき、支えになったものはお茶であり、師匠の武田先生でした。
初めは全く理解できなかった茶道を分からないなりにも続けることで、いつの間にか色々な気づきがあり(例えば、梅雨どきと秋では雨の音が違うことや、冬どきはお湯の「とろとろ」という音と「きらきら」と流れる水音が違う等々)、その愉しさに触れることで四季の移ろいを感じる心安らぐ時間となったのでした。また、悲しい出来事があった時には「自分を責めなくていいのよ」と先生の温かい言葉に何度も救われたのでした。
作中、「世の中には、『すぐわかるもの』と、『すぐわからないもの』の二種類がある。すぐにわからないものは、長い時間をかけて、少しずつ気づいて、わかってくる」という言葉があります。茶道に限らず、今は答えがでない奥が深いものにも根気よく向き合うことで、きっと何か得ることがあるのではないかと思いました。
また、自分の居場所が、家や職場・学校以外にあることは良いことなのだと感じました。と同時に、人との距離をとりがちな現代社会で、家族や友達以外に、人生に寄り添ってくれる人がいてくれることもとても素敵なことだと思いました。
余談ですが、タイトルの「日日是好日(これこれこれこうじつ)」とは、毎日が好い(良い)日だということ。そうなるように一日一日を大切に生きる心構えをいうそうです。面倒くさいと思ってしまいがちな家事や家族との会話や日々のあれこれも、毎日同じことができて幸せなのだとかみしめながら丁寧に生きていきたいと本気で思わせてくれる本作です。
(文/森山梓)