裏話もオイシイ『ダウン・バイ・ロー』
- 『ダウン・バイ・ロー [Blu-ray]』
- トム・ウェイツ,ジョン・ルーリー,ロベルト・ベニーニ,ニコレッタ・ブラスキ,エレン・バーキン,ジム・ジャームッシュ,ジム・ジャームッシュ,トム・ウェイツ
- バップ
- >> Amazon.co.jp
- >> HMV&BOOKS
アメリカ人の映画監督で脚本家に、ジム・ジャームッシュというオトコがいる。もわっと上向きに立ち上がった白髪が特徴的で、眉毛の形のせいかいつも少しだけ気難しそうな顔をしている。ところが彼の作品には、意外にも温かみのあるものが多い。三作目の『ダウン・バイ・ロー』(1986年)もそのひとつだ。
話の中心人物は、罠にハメられ刑務所行きとなった無職のDJ、ザック(トム・ウェイツ)とポン引きのジャック(ジョン・ルーリー)、そして意図せず人を殺してしまったイタリア人のロベルト、通称ボブ(ロベルト・ベニーニ)の三人。普段は交わらなさそうな三人だが、同じ房で時間をともに過ごし、脱獄をはかり森のなかをともに彷徨っているうちに妙な友情が生まれる。そんな物語だ。最初に房で会うのはジャックとザック。気取った態度をとる二人は少々似ているせいか衝突することもあるが、人を殺したにも関わらず太陽のように明るく、英語のつたないボブがくわわるとムードが和んでくる。
このムードに貢献しているかもしれない裏話がある。演者やスタッフは撮影後、寝泊まりしていたモーテルのバーに向かい、夜な夜な酔っ払うことが日課だったそうだ。あまりの騒がしさに出入りを禁じられたそうだが、それでもどうにか忍び込み、酒が入ったキャビネットを無理やりこじ開けたそうで、ジャームッシュ氏は「ワイルドな時間を過ごした」と振り返る。そこでルーリーをはじめウェイツやジャームッシュはベニーニに存在しない英単語をたくさん教え込んだという。彼らを信じ込んだベニーニはでっちあげの英単語をあちこちで使い、周りを混乱させていたそうだ。ちょっとした意地悪でもあるけれど、ふざけ合えるのも友情の立派な証だろう。モーテルの損傷はさておき本当に楽しんで作った映画なのだろうということが、作中の役者たちのちょっとした表情からにじみ出ていた。
(文/鈴木未来)