もやもやレビュー

都市伝説と密接な関係がありそうな『恐怖のまわり道』

恐怖のまわり道 [DVD]
『恐怖のまわり道 [DVD]』
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 映画にヒッチハイクが登場すると身構えてしまう。乗せたヒッチハイカーが殺人鬼だったり、あるいは乗せてくれたドライバーに監禁されたり。とはいえ、実際にはヒッチハイクは世界中で現在もポピュラーな旅行手段のようで、つまりはヒッチハイクというだけで身構えてしまうのは、あくまでも映画によるイメージが強いと思われる。1986年公開のヒット作『ヒッチャー』など、その典型的な例だろう。もっとも、乗せてくれと言ってきた相手がルトガー・ハウアーならその時点で危険を察知すべきだろうが。

 また、こうしたヤバいヒッチハイク映画の源流には、おそらく民俗学者のジャン・ハロルド・ブルンヴァンが収集し、そのものズバリの書名『消えるヒッチハイカー』(新宿書房)にまとめられたような都市伝説の数々があると考えられる。『ヒッチャー』の場合、同書で「消えるヒッチハイカー」および「鉤手の男」、また「バックシートの殺人者」と題されたエピソードを融合したような内容だ。

 ちなみにブルンヴァンがそれぞれのエピソードを収集したのは、「消えるヒッチハイカー」が1973年、「鉤手の男」は1960年、「バックシートの殺人者」は1967年。このうち後者2本が都市伝説として流布するようになった時期は収集時期とさほどズレはないらしいのだが、「消えるヒッチハイカー」だけは19世紀末頃までにはその原型が世界中で語られていたという。ヒッチハイカーを乗せたものの、目的地に到着して声をかけると後部座席のハイカーの姿はなく、実は数年前に亡くなった人だったという、割とよくある怪談話である。

 前置きが長くなったが、今回取り上げたい映画『恐怖のまわり道』は1945年公開作品。怪談話ではないが、「消えるヒッチハイカー」から転じてヒッチハイクはヤバいというイメージが世間に浸透している前提で製作されたサスペンス、あるいはフィルムノワールと考えられる。

 場末のバーでピアニストをしているアルには歌手の恋人がいるが、彼女はスターを夢見てロスへと向かう。アルは彼女を追って旅立つが、文無しのためヒッチハイクを繰り返す。あるとき、アルを乗せてくれたドライバーが急死。殺人犯扱いされたくないアルは、遺体を隠蔽した上でドライバーになりすまして旅を続けるが、今度は別のヒッチハイカーを乗せる羽目に。だが、そのヒッチハイカーがまたヤバい人物だった。

 本作は主人公がドライバー側とヒッチハイカー側、両方の立場で厄介ごとに巻き込まれるお得な一作。根底にあるのはヒッチハイク=ヤバい、という都市伝説によって醸成されたイメージと、また前掲書に登場する「死人の車」という別の都市伝説のようだ。「死人の車」は格安で手に入れた自動車に死者の臭いがこびりついているという内容。1944年に発生した都市伝説である、と同書には記されている。『恐怖のまわり道』は1945年作品なので、ちょうど話題になったばかりの都市伝説をヒントした作品、と見ることもできるだろう。

 だが、ブルンヴァンが「死人の車」を1944年発生と特定したのは別の民俗学者の研究成果とのことで、しかしなぜ1944年と特定できたのかは同書ではよくわからない。

 というところからまた別の映画を連想する。『カプリコン・1』だ。同作は火星探査宇宙船が実はヤラセで、搭乗予定だった宇宙飛行士が口封じのため国家レベルの陰謀に巻き込まれるという物語。まるで人類の月面着陸はヤラセだったという都市伝説の映画化のような内容なのだが、その都市伝説は同作公開後に流布し始めた、という話もある。

 と考えると、「死人の車」ありきで『恐怖のまわり道』が作られたというより、『恐怖のまわり道』が「死人の車」の都市伝説を生んだ可能性もゼロではないのではないか。都市伝説というあやふやなものを1944年発生などと確実に特定することなんて本当にできるのだろうか?

 などと思ったりするのだが、人類は月面着陸していないという噂が広まったのは『カプリコン・1』以降、という話自体、筆者はどこで見聞きしたのか覚えておらず、もちろん『恐怖のまわり道』と「死人の車」の関係も単なる推測に過ぎず、こうした曖昧なことを書く人が少なからずいるから都市伝説が生まれてしまうのではないか。読者諸兄には、決してこうした単なる推測を鵜呑みにせぬようかたくお願いしたい。

(文/田中元)

田中元画像.jpeg文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
https://about.me/gen.tanaka

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