もやもやレビュー

【無観客! 誰も観ない映画祭】第18回『人喰いエイリアン』

『人喰いエイリアン』※VHS廃盤

『人喰いエイリアン』
1986年・アメリカ・85分
監督/クリストファー・ハート
脚本/スタン・ハート、クリストファー・ハート
出演/ロン・シルバー、シャロン・シュラース、R.L.ライアンほか
原題『EAT&RUN』

***

 今回取り上げる作品は『人喰いエイリアン』です。「え? 先月やったよ。ボケたのか?」などと読者の声が聴こえてきそうですが、同名タイトルの異なる作品を、前回のついでに紹介してしまおうという安易な企画です。先月の『人喰いエイリアン』の原題は『ALIEN PREY』(異星人の獲物)でしたが、今回のは『EAT&RUN』(喰い逃げ)です。現在のようにネットが発達していなかった80年代は情報の取得も困難な時代。発売した松竹ホームビデオさんも、同じタイトルのビデオが既に存在している事を知らずに命名してしまったのでしょう。製作はロジャー・コーマンが設立した低予算映画専門のニュー・ワールド・ピクチャーズでした。

 イタリア人職人が作ったソーセージを積むトラックがニューヨーク近郊を走行中、閃光に包まれます。特撮を使わないでUFO飛来を表現する低予算映画お得意の手法です。直後、トラックはスキンヘッドの巨漢にヒッチハイクされます。巨漢はソーセージの美味しさを力説する職人の顔を見て、しきりに舌舐めずりをしています。説明を聞いているうちに食べたくなったのでしょうか。するとトラックは路肩に停車し、車内から悲鳴が上がります。巨漢はゲップをして、窓からプップッとスイカの種のように何かを吐き出します。それは職人が着ていたシャツのボタンでした。巨漢は、口の中に鋭い牙が並ぶ人喰いエイリアンだったのです。演じたR.L.ライアンは、同年に『悪魔の毒々ハイスクール』『吐きだめの悪魔』というグロ系ホラー映画に出演しています。

 この日だけで8人がボタンだけを残して行方不明となり、ニューヨーク市警が捜査に乗り出します。担当刑事のミッキーは、悪党をすぐに保釈してしまう慈悲深さで有名な判事のシェリルを訪ねます。「犯人はその悪党の中にいる」と推測した上司の命令でした。「そうかなあ~」とあまり気乗りのしないミッキーですが、会ってみた判事はドストライクのイイ女でした。話を終えたミッキーは自分の股間を掴んで「どお?」とシェリルにアピールします。警察官のセクハラは不謹慎だぞと思いきや、次のシーンで2人はベッド・インしていました。尻軽! 欧米か(死語)!

 一方、人喰いエイリアンはマンハッタンのリトル・イタリー地区に現れ、イタリア人だけを喰いまくりゲップしてボタンをプップッ。行方不明者は35人に上り、ミッキーは彼らの名簿リストから全員がイタリア人だと気付きます。ミッキーがリトル・イタリーで聞き込みをしていると、ピザ屋で巨漢が店主を喰っているところを目撃します。ゲップする巨漢に「フリーズ!」とミッキーは銃を抜きますが、顔にプップッとボタンを吐き掛けられ逃げらてしまいます。

 この遭遇だけでミッキーの推理は冴えに冴え、「犯人は最初に食ったイタリア人が美味くて味をしめたエイリアン」と簡潔にまとめて上司に報告します。当然相手にしてもらえませんが、ミッキーは署で押収してあるモルヒネを分けてもらい、シェリルに頼んでイタリア人のヤクの売人を保釈してもらいます。売人の腹にモルヒネ入りのビニール袋を巻き付けエサにする作戦で、これがまんまと大成功。エイリアンはモルヒネごと売人を喰ってダウンし、見事ミッキーが現行犯逮捕します。

 検事は死刑を求刑しますが、シェリルは「宇宙からの来客を無下に処罰したら文明人として恥よ」と保釈審問を要求します。さらにシェリルは、売人をオトリにしたミッキーを「人殺し」と責め、2人の関係に亀裂が入ります。そして弁護人の調査でエイリアンにはマリーという名前があり、生物的に12歳と判明したため裁判は非公開となり、判事のオフィスで最小限の人数によって開廷します。検事は「大量殺人により有罪」を主張しますが、弁護人は「未成年により無罪」と真っ向対決。ここで精神分析医のヘンゼル・グレーテル博士(グリム童話か!)が召喚され、「事件時は善悪の判断がつかない心神喪失状態」と鑑定したため、シェリルは「500ドルで保釈」とジャッジします。

 さあ、ここからが急展開。なんとマリーはシェリルに一目惚れしてしまいます。これにシェリルは満更でもなく、その日の夜にはベッド・イン! シェリルの尻軽すぎ! しかも相手は地球では未成年の12歳。それでも法律家か! っていうか、そもそも宇宙人を地球の法律で裁けるのか? ま、そこはファンタジーにしておきましょう。

 さて、せっかく逮捕したエイリアンを保釈された上にシェリルまでとられてしまった傷心のミッキーですが、ふとした事からシェリル一家がイタリア人だった事を知り、彼女に危険が及ぶと大慌て。だがマリーにも気付かれてしまい、シェリルは自宅で襲われます。そこへ間一髪ミッキーが駆け付け「シェリルは不味いよ。町のイタリア祭で美味いモノがいっぱい食えるぞ」と嘘を教えて追い払いました。マリーは頭が悪いのです。やがてマリーは怒って戻ってきますが、ミッキーは「メイドイン・イタリア」のラベルが付いた可愛い赤ん坊のヌイグルミを渡します。するとマリーは反射的にヌイグルミを食べ、苦しみ出して死んでしまいます。ミッキーはヌイグルミの中に毒を仕込んでいたのです。

 2人は仲直りし、シェリルは「犯罪者を庇いすぎてきた事を反省し、これからは法のもとに悪を裁くわ」と検事への転職を表明します。ところがミッキーは上司から保釈中のマリーを殺した罪で殺人犯扱いされ、シェリルからは「第一級殺人で起訴して死刑にしてあげるわ、ダーリン」と告げられ完。

 今なら炎上必至の人種差別を含む全く笑えないアメリカンジョークが満載で、まだ先月の『ALIEN PREY』の方が見所もありマシでした。また『ALIEN PREY』はマイナーなMIMIビデオ出身のくせに(失礼!)DVD化されているのに対し、こちらは大手の松竹がビデオ化していたにも関わらずVHSの時点でリリースが途絶えています。どちらも一般の映画ファンからすればクズ映画に変わりませんが、ネットで『EAT&RUN』のビデオを入手して見比べてみてはどうでしょう。

(文/シーサーペン太)

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム