フランケンシュタインに隠された人生 『メアリーの総て』
- 『メアリーの総て [Blu-ray]』
- エル・ファニング,ダグラス・ブース,トム・スターリッジ,ベル・パウリ―,スティーヴン・ディレイン,ハイファ・アル=マンスール
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フランケンシュタインといえば、頭からネジの飛び出した醜い姿が有名な怪物の物語である。誰もが知っているし、周期的に映画化されるので、物語の隅々まで勝手にわかったような気になっている。そんな作品ではないだろうか。まず、よく間違えられることとして、フランケンシュタインとは怪物の名前ではない。このモンスターを生み出してしまった科学者の名である。そして、もうひとつ意外な事実を挙げるとすれば、作者は女性で、かつ執筆時にはまだ10代であった。その名前はメアリー・シェリー。小説を読んでみると、映画ではほとんど描かれていない怪物の繊細さや苦悩が描かれており、どんな背景でこの物語が生まれたのか、そんなことが気になってくる。
映画『メアリーの総て』では、エル・ファニングがメアリー・シェリーを演じ、200年前を生きた彼女の人生を描く。肖像画を見てみたが、聡明で芯に秘めた力強さを感じさせる。どことなくエルに顔立ちも似ていて、印象はかなり近く、完璧なキャスティングだと思った。こだわりぬいた19世紀の衣裳や、メアリーが羽ペンで執筆する姿もいい。
監督はハイファ・アル=マンスール。メアリーの人生経験が『フランケンシュタイン』にいかに強く投影されているかを知り驚いたと語る。彼女の想像を絶するほどの喪失感は、怪物のなかに押し殺すように存在する悲しさと重なる。そして、サウジアラビアで生まれ育ち、女性として生き辛さを体験してきた監督の人生とも。胸がいっぱいになる作品である。
(文/峰典子)