作り直しが功を奏せなかった『エクソシスト ビギニング』
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1947年、東アフリカに5世紀頃に建てられた教会が発掘される。だが、その時代にキリスト教の布教はその土地にまで到達していないはずだった。現場へ赴いのたのは考古学者のメリン。彼はかつて神父だったが、戦時中、ナチの横暴から人々を救えず信仰を捨てた過去があった。発掘を進める中、メリンは教会地下に閉じ込められたものの正体に直面、信仰を取り戻し悪魔祓いのために奔走することとなる。
このあらすじを持つ作品は2本存在する。『エクソシスト ビギニング』と『ドミニオン』がそれだ。一本の映画にいわゆるバージョン違い、編集違いによる完全版やらディレクターズカット版やらが存在するのはもはや一般的であり、今後も無数に現れ続けるだろう。だが、『エクソシスト ビギニング』と『ドミニオン』は、そうしたものとはまた異なる。
そもそもの企画はどちらも「エクソシスト4」。当初は『影なき狙撃者』『フレンチ・コネクション2』『ブラック・サンデー』などのハードな社会派アクションの名手ジョン・フランケンハイマーが監督する予定だったが、病気により死去。代わりに『タクシードライバー』や『レイジング・ブル』などで脚本を務め、『ハードコアの夜』『MISHIMA』など監督作も多いアメリカンニューシネマ時代からの映画人ポール・シュレイダーが企画を引き継いだ。だが、いざ完成したところ、あんまり怖くないし地味だし、ということでお蔵入り。急遽『ダイ・ハード2』や『クリフハンガー』などド派手なアクションが得意なレニー・ハーリン監督にバトンタッチされ、全面的に作り直された。これが2本の「エクソシスト4」が存在する理由だ。
そんなわけで満を持して公開されたハーリン監督『エクソシスト ビギニング』、確かにCGをふんだんに使って派手だし、大きな音とかでびっくりさせるという意味では怖くなくもないかもしれないのだが、みんなが期待した「エクソシスト4」は絶対にこういうのじゃないんだよな、という内容になってしまっていた。だいたいメリンって『エクソシスト』1作目でマックス・フォン・シドーが演じていた、ほとんど世捨て人のような達観した人物なのだが、『エクソシスト ビギニング』であんな大冒険をした挙句にラストでかっこいい感じの決意みたいなのも見せちゃったりして、どう考えても『エクソシスト』に繋がらないのである。「ビギニング」じゃねえだろ!
そんな世評が響いたのか、配給会社はお蔵入りしたシュレイダー版も公開することとなる。それが『ドミニオン』であり、確かに地味ではあるのだが、抑えたタッチは絶対に『エクソシスト ビギニング』よりは怖い。業界内幕ものの映画ではしばしばプロデューサーが金のことしか考えていない見る目のない人として描かれるけど、あれって本当だな、と実感してしまう。
ということで『エクソシスト』シリーズとしてちゃんと楽しみたいのであれば『ドミニオン』の方がおすすめなのだが、日本では『エクソシスト ビギニング』しか劇場公開もソフト化もされておらず、『ドミニオン』はいくつかの動画配信サービスで見られるだけなので、やや手が届きづらいかもしれない。とはいえそもそも『エクソシスト』は1作目がとにかく素晴らしすぎるわけで、「マシな方」として『ドミニオン』を見たところで満足できるとも思えず、早い話『エクソシスト』を繰り返し見た方が有意義だと思います。
(文/田中元)
文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
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