もやもやレビュー

"夢"は小さくたっていい。『イン・ザ・ハイツ』

イン・ザ・ハイツ
『イン・ザ・ハイツ』
ジョン・M・チュウ,アンソニー・ラモス,コーリー・ホーキンズ,レスリー・グレイス,メリッサ・バレラ
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
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 『ハミルトン』で知られるリン=マニュエル・ミランダが創作したブロードウェイ・ミュージカルが原作の映画『イン・ザ・ハイツ』。ニューヨークのワシントンハイツ地区に住む移民の若者たちの苦悩や夢を描いています。

ワシントンハイツ地区で育ったウスナビ(アンソニー・ラモス)は、「故郷のドミニカ共和国に帰る」という自分の夢を叶えるため、小さなコンビニを経営し、毎日一生懸命働いてお金を貯めていました。多くの移民が集うワシントンハイツのコミュニティはまるで家族のようで、みんなの"母"と呼ばれるアブエラ、美容室で働きながらデザイナーを目指すヴァネッサ、この地域で初めてスタンフォード大学へと進学したニーナ、タクシー会社で働くベニーなど、各住人たちの物語が、それぞれの視点から描かれています。恋愛、夢、そして移民問題を交差させて、素敵な歌と共に感動の物語が紡がれていきます。

 印象的なのが、メインキャラクターの紹介を兼ねて、ウスナビの目標などが描かれるオープニングシーン。このシーンは7分を超える長さですが、まるで『ラ・ラ・ランド』の壮大なダンスシーンを彷彿とさせるような複雑な振り付けとカメラワークに圧倒されます。Varietyに掲載されたエディターのインタビュー記事によれば、この7分のシーンに、なんと6ヶ月もの時間を費やしたそうです。ヴァネッサのブーツの音や、ドアを閉める音やコーヒーメーカー。すべての要素が物語を伝えるために重要な役割を果たし、単にミュージックビデオのようにならないよう工夫したのだとか。このオープニングシーンが、本作全体に通底するエキサイティングな魅力を見事に表現しているので、最初からテンションが上がりっぱなしでした。
また、ミュージカル「ハミルトン」で主人公の息子フィリップを演じ、歌手としても活躍しているアンソニー・ラモスはもちろん、演者たちの圧巻のパフォーマンスにも注目です。

(文/トキエス)

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