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サメに喰われたガール 『ノー・シャーク』

ノー・シャーク
『ノー・シャーク』
Jules Roscoe,Livvy Shaffery,Nancy Pop,Bill Weeden,Cody Clarke,Cody Clarke,Cody Clarke
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どうも夏になると風物詩のようにサメ映画が気になってしまう。
特集記事を目にすることもあるから、同じような気分の人は少なくないのだろう。サメ映画というジャンルは、相も変わらず大喜利状態。霊界から出てくるわ、ゾンビになるわ、はたまた頭が分裂するわ。しかし同時に飽和状態であるのも事実。新鮮味に欠けてきており、いよいよネタも出尽くしただろう、そんな時期に登場したのがこの『ノー・シャーク』なのである。

これは...と心をザワつかせた最大の理由は、シャークが出てこない、ということ。かの『ジョーズ』でも、サメそのものが登場するシーンはかなり短い。しかしこの作品に至っては1秒たりともサメが出てこないのだというから、一体どんなシナリオなのだろうと再生してしまう。その時点で監督の策略にハマっているような気もする。

内容はというと「サメに喰われて逝きたい」と考えている女性が、ニューヨークのビーチで胸の内を独白する。1時間49分もの間、ただひたすらに。ここだけ聞くと、歪んだ性癖をコンセプトに勢いで撮ったB級映画なのだろうと思ってしまうところだが、これが想像以上に文学的。面白いのは主人公がサメを熟知していること。『ジョーズ』シリーズへのディスりや、フカヒレ料理への嘆きなど、ウィットに富んだ毒舌ぶりがいちいち笑わせてくれる。ぶっとんでいるように思えて、徐々に親近感を感じてしまうだろう。
サメ映画の行き着く先、ひとつの解答がここにあるのかもしれない。

(文/峰典子)

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