もやもやレビュー

闇から光の射す方角へ 『名もなき堀の中の王』

名もなき塀の中の王
『名もなき塀の中の王』
ジャック・オコンネル,ベン・メンデルソーン,ルパート・フレンド,ピーター・フェルディナンド,ジョナサン・アッセル,デヴィッド・マッケンジー
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原題は『Starred Up』。これは、少年刑務所から成人刑務所への早期移送を意味する言葉なのだという。主人公のエリック(ジャック・オコンネル)はまさにそれに該当する要注意人物。その素行の悪さから19歳で成人刑務所に送られる。

まごうことなく最年少の受刑者であり、強がっていながらもその姿には幼さが残る(グレーのスウェットがよく似合う)。そして想像を裏切ることなく早々にトラブルを起こすのだが、捕まらないようぬるぬるとオイルを浴び、椅子を壊し脚を武器にし、警備の男の股間に噛み付く。本能の赴くままに生きるエリックは間違いなくジャック・オコンネルのハマり役。これは彼にしか演じられないだろう。

そんなエリックは刑務所内で父親(ベン・メンデルソーン)と再会する。物心ついた時には父は捕まっており、母親は他界。たった一人で育ってきたエリックが今のような状況に陥るのも仕方のないことだったともいえる。はじめて父親らしいことをしたい父親は、お菓子を差し入れしたり(それを食べるエリックはまるで子どもに戻ったようで泣ける)、刑務所での生き方を指南したりと世話を焼きたがる。

キーパーソンとして登場するのが刑務所でグループセラピーを行っているセラピストのオリヴァー(ルパート・フレンド)。二人との出会いが、エリックにどんな意味をもたらすのだろうか...。暴力シーンも多く骨太な演出のなか、ふとした瞬間に光をまとう彼は美しくもある。それは刹那な希望である。

(文/峰典子)

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