愉快な気分に浸りたいときは黙って『デリカテッセン』
- 『デリカテッセン [Blu-ray]』
- ドミニク・ピノン,マリー=ロール・ドゥーニャ,ジャン=クロード・ドレフュス,ジャン=ピエール・ジュネ&マルク・キャロ
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古びた赤い壁をバックに、1匹の豚が浮かぶフランス映画『デリカテッセン』(1991年)のポスターからは、少し不気味な雰囲気が漂う。いざ再生してみるとたしかに不気味なのだが、シーンを追うごとにジャン=ピエール・ジュネ監督とマルク・キャロ監督の遊び心がそこここで炸裂し、ありゃこんなに愉快なのかと驚く。
ストーリーが繰り広げられるのは、終末戦争後の荒れ果てたパリの街はずれ。この辺りで唯一住居者がいるアパートの1階には便利なことにデリカテッセン(肉屋)があるのだが、食料不足のため、売られているのは店主が自ら殺した人の肉。肉にされるのはアパートに新たに越してくる人なのだが、元ピエロのルイゾン(ドミニク・ピノン)はそんな裏事情を全く知らずに入居を決めてしまう。
この彼がまたいい人なのだ。心をほどく優しい笑顔に人を自然と惹きつける無邪気さがあり、上階に住む店主の娘、ジュリー(マリー・ロール・ドゥニャ)の目は早くもハートになっている。そうして彼が殺されないようジュリー、動き出す!というのがおおよそのあらすじ。
このストーリーのどこに遊び心があるのかと思うかもしれないが、ベッドのバネを直す、店主が愛人とエッチする、などちょっとしたシーンにおかしな工夫が綿密に施されている。バックに流れる音楽のリズムを存分に生かしたこれらのシーンがはじまると、もうニヤニヤが止まらない。ストーリーが進むにつれて心地よく幸福感がふくらんでいく、そんな映画である。
(文/鈴木未来)