ウソが下手な人がウソを重ねたら......『ディック・ロングはなぜ死んだのか？』

死体をスイス・アーミー・ナイフのように使ったら？ そんな個性的すぎるアイディアを映画にして（『スイス・アーミー・マン』ダニエル・ラドクリフ主演）、たくさんの映画ファンを虜にしたコンビ、ダニエルズ。その片割れダニエル・シャイナートがまたとんでもない作品を発表！ タイトルは『ディック・ロングはなぜ死んだのか？』。下ネタ全開のタイトルに一発で惹かれた人も多いかもしれません。タイトルのイメージ通り、ダークコメディで個性的な一本に仕上がっていました。

　物語の舞台はある田舎町。売れないバンドを結成していたジーク、アール、ディックはバンド練習後にお酒を飲んでハッパを吸い、ハイになった状態でバカ騒ぎをしていました。しかし、あることでディックが重症を負い、ジークとアールは必死でディックを病院の前まで運び、なんと置き去りに。そんな2人は翌日、彼が亡くなったことを知り大混乱。小さな田舎町では「誰かがレイプされて亡くなったらしい」と瞬く間にウワサが広がっていきます。そんな中、ジークはアールと一緒にディックの血がついた車をなんとか掃除し、証拠隠滅を図ろうとするのですが......。

　警察がいると分かり易すぎるほど挙動不審になるジークと、全てを諦めすぐに街を離れようとするアール。2人が証拠隠滅のために車を捨てようとするシーンは、「なんでこんなに計画性がないの？」というほどの大失敗が起こります。また、誰かに問いただされても、目を合わせずにテキトーに返事するジークを見ると、「この人、ウソがつけない人だ！」と一瞬で確信。観客は、そんなウソをつけない正直者ジークがどんどんウソを重ねていく姿を見守り、いつしか「頑張れ！」と応援したくなる......そんな不思議な一本でした。ちなみにディックを演じたのは、ダニエル・シャイナート監督本人！ もちろん死体役も見事演じきっています。

（文／トキエス）